番外編3 はる

【番外編】はる

……ハタノ、起きてる?




夜の0時。




迷惑とわかっていたけど、メッセージを送ってしまった。


でも送ると、わりとすぐに顔文字が送られてきた。




(`・ω・´)シャキーン





ベッドで仰向けにそれを眺めていて、笑った。



それを眺めながら「バーカ」と呟くと、急に画面が変わってハタノの名前が表示された。


私を呼ぶその音にビックリして、スマホを自分の顔面に落としてしまって、痛みにうずくまった。



「……ハタノ、あんたのせいだから」


『へ?何が?』



電話越しのハタノの声は本当に間の抜けた感じだったから、これ以上怒る気も無くなった。



「……なによ、いきなり電話なんて」



もう夜も遅いから出来るだけ小さな声で聞いた。



『連絡してきたのは、ヒカリからじゃんか』


「電話してってなんて言ってないわよ」


『……寝れない?』



ハタノにそう聞かれて私は少しだけ黙った。


寝れないから、メールした。


そこは合っていて、そしてきっと本当はメールよりも電話がしたかった。



さっきよりももっと小さな声で「……うん」と答えた。


それは深夜だからとか、関係なかった。



『いよいよ明日だもんな、合格発表。あ、つーか、もう今日か』


「……うん」



外から時々ちょっとした車の音が聞こえるぐらい。


それ以外に聞こえるのはハタノの声。


そして自分から聞こえる体の音。



『なんだよ、緊張してんのかよ?試験本番は案外ケロッとしてたのに』


「逆にハタノは試験の時、ビビリまくってたくせに。何よ、余裕みたいな声出して」


『えーなんだよ、試験は問題解けるか心配で緊張するけど、今はもう結果出てどう足掻いたって変わらねぇんだから仕方ねぇじゃん?今更緊張とか、普通逆じゃ……』


「うるさい!!私が変わってるって言いたいわけ?」


『いや、そこまで言ってねぇよ。被害妄想だなぁ〜』



ハタノが笑っているのを聞いても、私のこの緊張が和らぐことはない。


恐い。


恐くなる。



「もし……」


『ん?』



ベッドで横に寝転がり、膝を抱える。



「もし……落ちてたら……ハタノと違う学校になっちゃったら……どうしよう」


『……』


「……やだな」



今日一番ちっさな声で言ったから、向こうにはボソボソとした雑音にしか聞こえなかったかもしれない。


……それでいいや。


だって今、むちゃくちゃハズイこと言っちゃったかも。



『……ヒカリ』


「……おやすみ!!眠くなってきたから!!電話切るね!!ありがとうね!!じゃあ明日」


『待て待て待て!!んな元気いっぱいな声で“眠くなってきた”わけねぇだろ!!』


「で……でも、その、明日も早いわけだし」


『ヒカリ……あのさ!!』



ハタノが電話を切らせないようにちょっと大きな声を出して、私はその通りに電話を切らずに固まった。


ハタノの声が耳をくすぐってきて、ちょっと赤くなる。



『俺も……まぁ、嫌……だよ。違う学校になるの』


「……うん」


『だから落ちるなよ』


「な……何で、ここでまたプレッシャーをかけるの!?」


『俺の方が落ちちゃうって可能性もあるし』


「それもすごく笑えない。やめて」


『でももし万が一、どっちかが落ちちゃってバラバラになったところでさ、一生会えないわけじゃねぇし』


「え?」


『放課後とか休みの日とか、どっか遊びに行けばいいわけだし……さ』


「……うん」



そう、中学のあの教室が全てだったわけでもなく、保健室や河川敷や色んなところが世界の一つだったのと同じように、高校が世界の全てではないのだ。


仮に高校が違ったとしても……


私が思った事はハタノも同じだったようで……



『会いたい時に会おうと思えば……』


「……うん」



ハタノは欲しい言葉をくれる。


うん、会いたい時に会える場所を作ればいい話なんだ。


しばらく無言になったら、ハタノが叫びだした。



『あー…………ダメだ!!今のナシ!!』


「は!?」


『だって俺、今変なこと言った気がする。深夜の変なテンションだった!!忘れて!!』



私は枕に顔を埋めながらクスクスと笑った。


そして「バーカ」と言った。



ハタノとのこうした時間が……自分の腐って死んでいた時間を溶かして、また生まれ変わる実感をする。



グダグダで曖昧な、おぼろげな、どうでもいい時間。


だけど、愛しい。



私はウトウトをしながら、私の名前を呼ぶハタノの声を聞いていた。



「……ハタノ、なんか本当に眠くなってきたかも」


『……自由だな』


「ごめんね、いきなりメールして……電話まで」


『別に……そんぐらい……』


「うん」


『むしろ……』


「え?」


『むしろ、こうやって頼られた方が嬉しい……』



息が止まる。


止まりそう。



「……バーカ」



すっごすっごく小さな声で言った。


電話の向こうでハタノが笑った。

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おぼろ 駿心(はやし こころ) @884kokoro

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