呑まずにはいられない…

J・バウアー

なぜこうなった??

 神官。この世界では、聖アウレリウス大聖堂を頂点とした宗教組織に関わる者もしくは関わっていた者を総じて神官と呼ぶ。神官の身分は、大主教を頂点に、主教、司教、司教補、司祭、助祭、副助祭、侍祭、読師、修道士と続く。優秀な者は教会組織に残って役職に就くが、そうでない者は、市中で本業をしながら布教活動とか、修道院で身につけた白魔法を使って生活とかしている。本業の中で最も多いのが「冒険者」である。冒険者ギルドで登録すれば、各地に点在するギルド支所が扱う市中からの依頼を受任することができる。依頼を単独で受任する者もいるが、大抵は数人のパーティーを作って受任している。

 神官のシャルは読師にはなったものの、ど田舎の教会に配属されてしまい、それが嫌になって辞め、日銭を稼ぐ冒険者に身をやつしている。白魔法は習得したが、神聖魔法を扱うことはできない。白魔法と神聖魔法の違いを端的に言うと、白魔法は生活魔法、神聖魔法は神の奇跡。白魔法では、擦り傷や切り傷を治したり、軽い頭痛や腹痛を抑えたりすることはできるが、骨折や鉱物由来の劇症の治癒、切断された四肢を復元、仮死状態からの蘇生などは神聖魔法でないとできない。神聖魔法を扱える神官は、ごく僅かである。

 シャルがある町で冒険者ギルドの依頼をこなしていると、あるパーティーから声がかかった。そのパーティーは、前衛職、探索職、魔法職とバランスの良いパーティーだったのだが、回復役がいなかった。一人でやれることに限界を感じていたこともあって、シャルは加入を決める。

 魔物討伐の依頼は、領主や大商人などから出されるので報酬額が高い。シャルが加入したパーティーは、主に魔物討伐の依頼をこなしていた。シャルは新入りで戦闘のメインではないから分け前が少ないとはいえ、それでも一人でやっていた頃よりも実入りは大きくなった。

 ただ、魔物は、王都や大都市近郊には、それほど出没しない。というのも、王国の軍や騎士団だけでなく、大聖堂の聖騎士団も魔物狩りをしているため、出現してもすぐ討伐されてしまう。ゆえに、シャルのパーティーは、徐々に活動拠点を、辺境の北へと移していった。

 そんなある日、パーティーのリーダーは、北の辺境にダンジョンが出現したという話を耳にした。ダンジョンには魔物が徘徊しており、迷路になっていたり、想像もできない異世界が広がっていたりと危険なのだが、金銀財宝だけでなく、貴重な魔法の武器や防具、上級魔法を習得できる書物、奇跡を引き起こす魔法の道具などを手に入れることができる。今よりさらに上のランクの依頼をこなすには、武器道具をグレードアップする必要がある。順調に依頼をこなしていたこともあって、しばらく依頼を受けなくても金銭的に余裕があるので、思いきってシャルのパーティーは、ダンジョンがあるという北の町を目指すことにした。

 何日歩いたか分からなくなるくらい、山を越え谷を越えて、ようやくの思いで目的地のダンジョンの町にやってきた。新しくできたという割には、そこそこ建物が建っていて、冒険者を中心に賑わっていた。シャルは、仲間たちと共に宿を決めたあと一人で町を歩いていたら、かつてサポートをしていたパーティーのメンバーの一人と再会した。再会を祝して昼食を共にしたのだが、話し込んでしまって結局そのメンバーとは夕食まで共にしてしまい、宿に戻ったのは深夜だった。

「よう、遅かったな」

 パーティーのリーダーが、シャルの帰りを待っていた。まさか待っているなんて思ってもいなかったから、シャルは恐縮した。

「ごめん、遅くなって。どうしたの?」

「いや、伝えておくことがあったから…」

 一旦視線をはずしたリーダーは、改めてシャルに向き合った。

「神聖魔法を扱える神官と知り合ってね。仲間になってもらうことになった。もう、お前にいてもらう必要がなくなったから、パーティーから外れてもらいたい。今まで、ありがとな」

「は、はああ?」

「それじゃあ。これからも頑張れよ」

 これだけ言うと、リーダーは部屋に戻っていった。

 一人残されたシャルは呆然となっていたが、そのまま足は、深夜も営業している居酒屋へ向かっていた。

 居酒屋「一角獣のため息」亭で一番強い酒を注文すると、それを一気にあおった。そして、お代わりを何度か頼んでいるうちに、不満が少しずつ口から漏れだしていった。

「田舎が嫌で教会辞めたのに、こんな田舎に放り出されて、どうしろってのよ。迷惑かけたわけでもないのに、何で私がクビになるわけ?ねえ、何で何で??」

 隣でドワーフと酒を酌み交わしていた中年男にシャルは絡みかける。突然、酔っぱらい女にグチをぶちまけられた男は、苦笑を浮かべた。

「まあ、人生良いこともあれば悪いこともあるさ。話を聞いてやるから、思う存分ぶちまけてみな」

 丁度良い酒の肴を見つけたと言わんばかりに、男はドワーフと笑みを交わした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

呑まずにはいられない… J・バウアー @hamza_woodin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画