命乞いして殺されるのはモブの特権です!〜仲間を見捨てて殺されたフリをして最終的に敵を殺すムーブを楽しんでいたら、僕を頂点に置く謎組織が出来上がって世界を支配することになっちゃいました〜
あした
命乞い1. 勇者パーティーの荷物持ち1/4
「此度もよく無事で帰って来た」
アドラッセル王国王城———玉座の間。
その玉座に座り君臨する国王陛下が、跪く四人の男女にお褒めの言葉を授け、さらに言葉を続けた。
「普通は1000人単位の騎士団がやっと倒せるブルードラゴンをたった四人で討伐してみせるとは……流石は我が自慢、我が見込んだ———勇者パーティーよ」
勇者パーティー。
国王の言った通り、国王自ら選出し、結集させたパーティーだ。それも実力者揃い。
「いえ、このようなことができなくて、何が勇者パーティーと名乗れましょうか」
「そうです。これくらい簡単にこなさなければ、魔王を倒すことなど、夢のまた夢です」
この勇者パーティーのリーダー、女勇者スグリに続いて、聖女アイビーが勇者パーティーの最終目的を語った。
世界を破滅へと導く魔王。
その存在を倒すことが勇者パーティーの絶対的使命だ。
「そうか……うむ、其方らの言う通りだな。しかし、次はそうはいかんぞ」
その言葉に、玉座の間に緊張が走る。
「いよいよ、ですか……?」
「うむ。其方らには———魔王軍幹部、魔人アレスの討伐してもらう」
スグリの問いに、国王は次の討伐命令を下した。
魔王軍幹部。
魔王軍の中でも、極めて高い戦闘能力を持った10人の魔人達。
その中でも、好戦的だと知られる魔人アレスが、今回の討伐対象だ。
「魔人の討伐、ですか……」
「待ってたぜ、この時をよォ……!」
「やっとか、待ち侘びたぞ」
不安な面持ちのアイビーに対し、弓使いマヌ、そして重騎士ヌケは、魔人討伐にやり気に満ちていた。
男と女では、こうも反応が正反対だ。
否、撤回しよう、一人例外がいた。
「承知いたしました……国王陛下! 私達、勇者パーティーが! 魔人アレスを打ち滅ぼし! 人類の夜明けの始まりを刻みましょう!」
勇者スグリだ。
胸に手を当て、強い意志の宿った瞳で顔を上げ言った。
100年間に及ぶ、魔王の支配、人類の暗黒期。
その終止符に打つ為だけに自分は存在し、生かされているという自負を彼女は持っている。
「スグリよ……。そうか、うむ、そうであるな。其方ら勇者パーティーが人類の自由を取り戻す始まりとなるな」
「はい!」
「そこで我から其方らに、プレゼントを送ろうと思う———入ってきたまえ」
国王一声とともに、パタ、パタ、とゆっくりとした歩みで、振り返る勇者パーティーへと近づくのは、自身の身体よりも三倍はある冒険者用リュックを背負った一人の少年。
「えへへっ、どうも!」
現れたのは、無邪気な笑顔を見せる少年。
(あの荷物はなんですの!?)
(小せぇーのに、どうして!?)
(あんな巨大なリュックを平然と背負っている、だと!?)
さすがにこれには、勇者パーティーの目が点状態。
「こ、この少年は……?」
しかし、流石はリーダーというべきか。
スグリは少年の正体を知るべく、国王に尋ねた。
「紹介しよう。この少年の名はモブゥーオ。其方ら勇者パーティーの荷物持ちをする、サポーターである」
「初めまして! この度、名誉ある勇者パーティーの荷物持ち兼サポーターに任命されたモブゥーオです! よろしくお願いします!」
モブゥーオと名乗った少年は、元気良くお辞儀をした。
そう、バックが開きっぱなしのままお辞儀をしたのだ。
結果、どうなるかは言うまでもない。
ガシャガシャ! と荷袋の中身がカーペットの上にぶち撒けられた。
……そのほとんどは冒険に関係の無い、お菓子の類。
「あたたたっ! ご、ごめんなさ~い!」
いそいそと、荷物持ちモブゥーオは散らばったお菓子を拾う。
そしてポイポイと後ろへと放り投げ、背負っているバックへとノールックで入れていく。
その様子を、勇者パーティーは引きつった笑みで見ていた。
「ほ、本当に大丈夫なのかよ……アイツ」
「わたくし達に付いてこれるのでしょうか……?」
「先が不安だ……」
仲間達の少年に対する言葉が耳に入り、ハッとしたスグリは国王へと振り返る。
「こ、国王陛下! 私達のためにサポーターメンバーを探してくれたことにはとても感謝しております……ですが、申し訳ございません! 私達、勇者パーティーにサポーターは不要でございます!」
「えぇえええええええええええええええええ!? 何でぇええええええええええええええ!?」
やっとお菓子をバックに入れ直したというのに、まさかのサポーター要りません宣言。
モブゥーオは絶叫を上げ、涙目になっていた。
「……それは、どうしてかね? サポーターがいれば、其方らは戦闘に集中できる。わざわざ自分たちで野営の準備や予備の武器を持つ必要も無い。……まさか雑用みたく扱う事が申し訳なく、心が痛むのか?」
「違います。そんな理由でサポーターが不要だと言うのは、冒険者の風上にも置けません。サポーターに対する侮辱にあたります」
「なら、どうしてだ?」
「それは……」
スグリは沈黙した。
それを全員が見守る中、やがて彼女は重く口を開いた。
「今回、私達が挑むのは初めての魔人討伐……そして初めてのサポーターとの冒険……。多くの懸念要素があり、私達は自分の身を自分で守る術を持ち合わせていますが……この少年にはそれがありません。最悪の場合、死に至る可能性も……」
「———ご心配なさらないでください」
そう言って、天使が顕現したかのような笑みを浮かべる―――モブゥーオ。
その声によって、この場の空気が和らぐ。
さらに彼は、目を丸くする勇者パーティーに向かって歩む。
「勇者様……スグリ様は僕の身を案じておられるのですね? 見ず知らずの僕なんかの命を想って下さるなんて……とても、お優しいです」
「いや、私は—――」
「確かに僕は皆様のように強さも、勇敢さも無い、ただの人間です……。ですが! 僕も皆様と人類と同じように魔王を討ち倒し! 平和な世界を望む一人の人間でもあります!」
「平和な世界を望む……」
「一人の人間……」
勇者と聖女がモブゥーオの言葉を口にすると、彼は大きく首を縦に振って頷いた。
「皆様のお役に立ちたいのです! とてもちっぽけな、この手で! そして信じているのです! たとえ足手まといの僕がいたとしても、そんなことが気にならないくらい勇者パーティーは強いのだと! だから―――」
モブゥーオはその場で跪いて、胸を手を当てた。
「皆様も僕を信じてください! 全身全霊で皆様とサポートいたします! 僕は何があろうと、どんな絶望が目の前にやって来ても—――絶対に逃げません! 絶対に裏切りません! だからどうか、僕も一緒に魔王を倒す一人に、『英雄の荷物持ち』とならせてください! どうか、お願いします!」
モブゥーオは手を差し出した。その手はプルプルと震えている。
不安なのだろう……この手を取ってくれなかったらどうしよう、と。
しかし、そんな不安はどうやら杞憂だったようだ。少年の手を掴む者達がいた。
「こちらこそ、よろしく頼むよ―――サポーター君」
「す、スグリ様……!」
「長い旅路の間……よろしくお願いしますね? サポーター様」
「アイビー様……!」
「しっかりサポートしてくれよ、サポーター!」
「マヌ様……!」
「あとは頼んだ。全てをお主に託す、サポーター殿」
「ヌケさ———って、えぇえええ!? ヌケ様、死んじゃうのぉおおおお!!」
「冗談だ」
「なーんだ、冗談だったんですかぁ」
ホッと、胸を撫で下ろすモブゥーオ。質の悪い冗談だ。
「にしても何だよ、『英雄の荷物持ち』ってよ。そこは『英雄』でいいだろうよぉ」
モブゥーオと肩を組んで、マヌはそう尋ねた。
「そ、それはその……皆様と同じく『英雄』を名乗るのは烏滸がましいと思いまして……」
「そうですか? 全く烏滸がましいだなんて思いませんけど……」
「私もアイビーと同意見だ。というより、私達が魔王を討った暁として、君にも『英雄』の一人として名を刻まれる権利は十分にあるぞ」
「……『英雄』も『勇者パーティーの雑用係が実は最強で無双する』とか、全く興味ないんだけどな……」
「む? 何か言ったか?」
「い、いえ! こんな僕でも英雄と呼ばれるなんて……とても光栄です!」
「さて、勇者パーティーが新たな仲間が加わり、新生勇者パーティーが今この時結成された」
国王の言葉を受け、再度全員が跪く。
「だが、今はそれを喜ぶ暇さえない。さぁ、勇者パーティーよ。次なる敵———魔人アレスを討ち滅ぼすべく旅に向かうのだ!」
「「「「「はっ!!」」」」」
新たにサポーターが加わり、五人のパーティーとなった彼らは、魔人アレスが支配する『暗き森』へと向かった。
その道中、村を襲う魔物を倒しては助け、商人の護衛など。
目的以外にも勇者パーティーの人助けが行われた。
困っている人は見過ごせない質なのだ、勇者パーティーというものは。
そうして勇者パーティー一行らは『暗き森』へと辿り着き—――魔人アレスとの戦いの火蓋が切って下ろされようとしていた。
のだが—――
「こ、こここここ殺さないでくださいぃいいいいいいいいいいい!!! どうか僕だけはぁああ!! 僕だけの命はぁあああ!! お助けをぉおおお!! ———魔人アレス様ぁああああああああ!!!」
そこには人としての誇りも尊厳も何もかも捨て、全力で命乞いする―――自称・英雄の荷物持ちモブゥーオが渾身の土下座をお見舞いしていた。
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