第2話

「竜神様が、唄ってる」




私は少し離れた雷雨の曇天を見上げながら然う言った。



「ねえ、ほら。竜神様が」


畑仕事に精を出す農民たちに、曇天を指さして言うも返事はない。


「ねえったら」


雲に閉ざされた光の所為で暗い色に変わった泥を草履で踏みつけながら、仕方がないから傍に咲いていた雑草へ語りかけた。



――貴女は、竜神様が好きね。



やっと、返事が来る。



「うん」


私はしかと頷き雑草が足元に来るように石段の上へ腰を下ろす。


「ねえ、話し相手になって」



――竜神様は、春を告げに来たのね。



「春?」


首を傾げたら、雑草は知らないの、とでも云うかのように揺れた。



――竜神様はね、春を告げることがお役目なのよ。南の方から巡って来られた竜神様は、ああやって春を唄ってこの地にも春を告げに来てくださったの。



貴女、憶えていない? と。

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HUG 鳴神ハルコ @nalgamihalco

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