青色の心は何処にある
りおん
青色の心は何処にある
「あ、あの、
その言葉を聞いて、
小さい頃から背が高く、中性的で綺麗な顔立ちをしている柚真は、女の子に人気があった。さらさらとした黒髪が風に吹かれて揺れる。柚真は目の前にいる女の子に聞こえないくらいで、ふっと息を吐いた。
この高校に入って何度目だろう。こうして誰もいない場所で、愛の告白を受ける。柚真はその度に気持ちが沈んでいた。
目の前にいる女の子は、顔を真っ赤にして柚真のことを見つめる。彼女は本気なのだ。遊びやからかいで告白をしたわけではない。そのことは柚真にも伝わっていた。
……だからこそ、今から言う言葉が、柚真自身にも重くのしかかるような気がした。
「……ごめん、僕は、お付き合いはできない……」
風がまたひゅうっと吹いた。顔を真っ赤にした彼女は、ちょっと下を向き、元気がなくなっていた。
「……そ、そっか……ごめんね、変なこと言っちゃって。忘れて!」
彼女はそう言って、柚真に背を向けて走り去ってしまった。
一人残された柚真。彼女の後ろ姿を見た後、今度はふうっと、声が出そうになるくらい重い息を吐いた。
告白してきた彼女のことは、柚真は名前も知らない。一般的にはイケメンの部類に入るであろう柚真の弱点は、人を覚えるのが苦手なことだった。いや、それでなくてもこの高校には九百人ほどの生徒がいる。その半分が女子生徒だったとして、顔も名前も知らない女の子はたくさんいて当たり前なのだ。
柚真は空を見上げた。自分の心は重く苦しい濁った色をしていそうなのに、空はこれでもかというくらい青かった。
自分にもこんなに爽やかな青色の心があればいいのに……心の色というのはよく分からなかったが、柚真はふとそんなことを思った。
「――また告白されたみたいねぇ」
そのとき、柚真の背後から声が聞こえてきた。振り返ると一人の女の子がいた。
「……見てたのか」
「いやー、帰ろうかと思ったら、柚真が女の子についていくのを見ちゃったからさぁ。またかって思ったよね」
そう言った彼女はニコッと笑った。
「……趣味が悪い」
「あーっ、そんなこと言うんだぁ、ふーん、そーなんだー」
笑ったと思ったら、頬をぷくーっとフグのようにふくらませる彼女。彼女は
柚真と柚葉。なんだか似たような名前なので、人を覚えることが苦手な柚真も柚葉のことはすぐに覚えた。柚葉の肩くらいまでの綺麗な黒髪が風で揺れる。
「まぁ、柚真はカッコいいから、仕方ないんだよ」
「……そんなの、どうでもいい」
「あ、あまりそういうことは他の人に言わないようにね。あいつカッコいいからって調子に乗ってるって思われるよ」
「……忠告ありがとう」
「うんうん、素直でよろしい。で、今回も恋になることはなかったんだね」
柚葉が柚真の腕をツンツンと突いた。柚真は柚葉の距離の近さがどうも気になっていた。だからといって柚葉は柚真に告白をしたりしない。自分は柚葉にどう思われているのか、柚真には分からなかった。
「……まぁ、知らない女の子と付き合うなんてできないから」
「柚真は真面目だねぇ。ま、そんなとこも嫌いじゃないんだけどね」
柚葉がさらに一歩柚真に近づく。だから近い……と心の中で思っていた柚真は、柚葉が何を考えているのかさっぱり分からなかった。
「……ねぇ、私が柚真のこと好きって言ったら、どうする?」
そのとき、またひゅうっと風が吹いた。自分の聞き間違いなのかな、好きとかどうとか聞こえたが……と、柚真はぼうっとしてしまった。
「……なんてね、まぁ好きか嫌いかっていうと好きな方になるんだろうけど、お付き合いしてください! なんて言わないから、安心して!」
そう言った柚葉は、またニコッと笑顔を見せた。
重く苦しい濁った色をしていた柚真の心は、少しだけ青色に近づいたような。柚真はまたふうっと息を吐いて、柚葉を見た。
「……まぁ、柚葉は柚葉だから。分かってる」
「んー? なんだかよく分からないこと言うねぇ。ま、いいか。こんなとこで立ち話してるのもあれだし、帰ろっか」
「よく分からないのはこっちのセリフ」
「あーっ、また生意気なこと言ったなぁ、いつかギャフンと言わせてやる」
「どういう表現なんだ……まぁいいか」
いつもの柚葉に少し救われた柚真は、自分の心がまた少し青色に近づいたような気がした。
青色の心は何処にある りおん @rion96194
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