浮遊感と現実感の狭間で書く。

生きるために創作をするのか。
創作をするために生きるのか。
人が何かに囚われる為の理由など、案外些細なことで十分なのかもしれない。

男は医師から診断を受ける。
病名もなし。病気がどうかも分からない。創作物に命を吹き込みすぎたのが原因で、創作をやめるか、生きるのをやめるかの二択を迫られる。
ひとりの人間の。
命を懸けた最後の創作は始まる。

主人公と二人の女性の視点で描かれるのは淡く静かな物語。ただの日常の話。
断片的に進んでいくのはすれ違いのような物語で、読み進めると次第に点と点が繋がっていきます。人物同士の付かず離れずのやり取りはもどかしさがありつつも、この世界で生きているんだという妙なリアリティがありました。

作中通して心理、情景描写が丁寧で重厚なので最後まで美味しく頂けました。
また、どこか現実感のある表現と擬音が、命を文字通りに削って創作をするという、ファンタジー的な設定をより引き立てているように感じました。

まるで、実在した人物のノンフィクションな出来事かと錯覚してしまうような、巧みな文章と共に一人の創作家の物語を。いや、人生をお楽しみ下さい。