学校がただ怖い、それだけ。

月兎アリス@カクヨム、進化!!!

怖くなった日

 わたし、深見美結ふかみみゆは中学一年生。

 今年の四月から区内にある私立の女子校に通い始めて半年。今は十月。もうすぐ中間試験が待ち構える季節だ。


 でも。

 この間、あの日を迎えた。


 + + +


 一日の授業が終わり、ホームルームの直前の時間になった。

 わたしはさっきまで使っていた国語の教科書をロッカーにしまいに行く。そのとき後ろから、クラスメイトの原野さんが来て言った。


「深見さん、スカート、血がついているよ」


 最初はどういう意味なのか理解ができなかったが、すぐに分かった。

 というのも今日もわたしは生理だったから。中学一年生だから始まっていても変ではない。女子校だから油断していた。


「保健室行ったら洗ってくれるから、行ってみたら?」


 なんと優しい。そんなことまで教えてくれるなんて。

 ただ今は時間がさほどなかったので、放課後になったら寄ると答えた。ただ保健室に向かうまでは、誰にも自分の後ろ姿を見られぬよう警戒していた。


 + + +


 放課後、保健室に向かう。ちょうど保健委員の方も来ていて口にするのが怖かったが、養護の先生にほぼ耳打ちで伝えた。


 とりあえずスカートを預けたのだが、ここからが問題だった。てっきりスカートを渡されると思っていたわたしは、黒い体育ズボンを渡されて戸惑った。ついでに体の小さい私には大きすぎるくらいのサイズだった。腰のところがゆるゆるだ。

 とりあえずスカートを渡して一時間後に帰ってくるよう言われたのだが。


 今の格好は、紺色のポロシャツに黒の体育ズボン。本来制服と体育着を混ぜて着てはいけない校則があるこの学校で、わたしの姿はとても浮いていた。

 だから見られるのが怖くて、急いで上も体育着を着替えにお手洗いに入った。とっくに清掃の時間は終わっているはず。

 けれども入口には「清掃中」と書かれた黄色い看板が立っていた。


 恐る恐る中に入ると、気の強そうな女の子が数名いた。視線に怯えつつ個室に入った時、外から声が聞こえた。


「は? 入って行ったんだけど」

「掃除の邪魔だからやめてほしい。うざっ!」


 わたしは体が金縛りのようになってしまった。

 本来なら清掃の時間は終わっているはずだ。清掃当番と思わしき彼女たちもとうに撤退しているはずなのに、なぜここにいるのか分からない。それに清掃が終わったなら、わたしは掃除の邪魔にもならないだろうに。


「制服の着方も間違えているしね。後で大島に訴えようよ」


 大島とは、威圧感の半端ない学年主任だ。風紀委員の担当教師でもある。

 生徒はみんな大島を怖がるが、少しでも校則を破ると彼女に訴える女子がどこかで発生する。


「校則違反だって何度も言われてるよね?」

「分からないのかな? ついでに前科あるしね」

「掃除の邪魔と異装でしょ?」


 わたしは下唇を噛み締める。確かに今わたしは二つも校則を破った。けれども、反省の仕方がわからない。それは分からないわたしのせいなのかな……。


「吉野先生にも言おうよ」

「賛成〜。あとあと、出てきたらわたしたちで事情きかない? とっ捕まえて」

「「「賛成〜」」」


 すでに着替え終わったが恐怖心が収まらない。出ることもできない。足がすくむ。しかし、そうこうするうちに個室のドアを叩かれた。


「あのー、おっそいんで早く出てきてくださーい」


 恐る恐る鍵を開ける。外には気の強そうな顔の女の子が三人いた。一年生なのにスカートは膝の上まで上げていて制服の着方も自由。本来スカートは膝下まで伸ばす必要がある。これは校則で決められていること。


「制服の着方ダメだったし掃除の邪魔したんですよね〜?」

「やめてくださーい。超うざーい」


 ギュッと目を固くつぶって俯く。一番背の高い女の子が言った。


「あんたのせいでわたしたちが怒られたら責任とれるんですかー?」


 背が高くて声も一段と強かったから、余計威圧感がある。怖くて、怖くて。仕方なかった。私が黙っていると、その女の子が舌打ちした。


「マジで腹立つ。なんか言えよ!」


 スネを蹴られた。着替えを入れている袋を落とされる。すぐに拾うと、また女の子が言った。


「答えている暇があったら何か言ってください。わたしたちも時間ないんで。マジうざいし目障りだし腹立つんで答えてください」


 + + +


 このとき人が駆け付けなかったのにはいくつか理由がある。一つ目はお手洗いが教室や職員室から離れていたこと。二つ目は新しい設備で防音されていたこと。三つ目は近くを通る生徒や教職員がいなかったことだ。


 あれからというもの、あの人たちは廊下で私を見かけるたびに笑ったり、人がいないところで馬鹿にするようになった。

 生理後症候群と重なってしんどくて、次第に教室のあるフロアまで上がれなくなった。


 以降私は保健室登校である。



【作者コメント】

 このお話はフィクションですが、私の実体験が主軸です。

 私は保健室登校にはなりませんでしたが、生理の二次被害がきっかけで恐怖を感じたことがあります。

 というか前半は、ほぼ何一つ違いません。

 女性の皆さんには共感を、男性の皆さんには発見を、という感じでしょうか。

 生理痛とかそういうのではなく、言えない怖さが引き起こす人間関係への影響だと思います。

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