2話 異世界のくせにじゃが芋がある

 リィザと璃砂わたしは並行世界における同一人物であるが、容姿はやや異なっている。顔の造りや背格好は大方同じではあるが、髪色や瞳の色が全く違う。

 璃砂わたしは黒髪に焦茶の、日本人にはよくある配色であることに対し、リィザは豊かな金髪に碧眼である。

 もっとも、璃砂わたしに限った話ではないが――サナも紗菜さなとは違う。

 赤毛に鮮やかな緑色の瞳をしていても、紗菜と認識してしまうあたり、ひょっとすると姿かたちから違うのかもしれない。

 異世界の我々にあたる存在を、勝手にそう・・認識してしまうだけなのかもしれない。


「式、ねぇ」

「お嬢様……

 本当にお忘れになったのですか?」

「……そういうことになるわね」


 リィザと入れ替わったわたしの姿は彼女のものへと変わったが、記憶までは引き継がれなかった。今のわたしは記憶喪失ということになっている。


「本当に、上手く行かないものだ」


 無機質な円柱形の街並みから帰還した自宅は、豪邸と言っても差し支えない。

 外観こそやはり有名デザイナーが担当しました、と言わんばかりの変わったものだったが、内装は――まるでどこかの宮殿にでもいる気分である。


「シロガネだっけ、婚約者」

「シロガネ・リュウシィン様ですよ……

 なんで忘れてるのよ。ああ、不安だわ」

「聞こえてるからな」


 リィザには婚約者がいるが、どうやら仲はあまり良くないようだ。

 彼女の日記を翻訳しながら読む限り、シロガネはこの国における貴族――それどころか王族にあたる人間だそうで、婚約者であるリィザの地位が高いことが伺える。

 現国王には跡取りがまだおらず、王弟の息子であるシロガネを次の王に推す声もあるという。


「トキノミヤコ王国、ねえ」

「リィザ様……大丈夫?」

「憐れむな。お前ちょいちょい雑だな」


 東京タワーもない、スカイツリーもない。

 高くそびえる、遠くに見える塔はお城らしい。


「で……式ってなんの?」

「ああもう!

 王立魔術学院への入学式ですよ!」

「そっち? 結婚式とかじゃなくて良かった!」

「それは卒業後の話です!

 シロガネ様もご一緒に入学されるんですから、しっかり仲を深めて下さいませ!」


 食べ物やら、聞き覚えのある単語があるくせに――少しだけ似ているくせに、魔法がある世界。


「やっぱり、似ているって認識・・してるだけなのかね」

「……お嬢様はお嬢様ですよ」

「じゃが芋はじゃが芋・・・・のくせに」

「あたし今、じゃがいも扱いされました?」


 異世界のくせにじゃが芋がある。

 おおかた、転移者が持ち込んでそのまま定着したのだろう。

 黒スーツの男曰く、お互いの世界が干渉して、どこぞの誰かが迷い込むなんてしょっちゅうあるそうだ。

 それから、ある程度文明レベルが近いだとか、時空の階層――とスーツの男は言っていた――が近いと、自然と似てくるらしい。

 なんだよそれ。収斂進化? しゅうれんしんか


「……カニ化、かな」

「お嬢様?」

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私が悪役!?愛されると思うなですって!? 感謝ッ!自由ッ!!謳歌ッ!! と思ったら溺愛しやがって何が何でも逃げてやる!! 異世界転移令嬢のやり直し Bom-🧠寺 @bombrainbom

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