私が悪役!?愛されると思うなですって!? 感謝ッ!自由ッ!!謳歌ッ!! と思ったら溺愛しやがって何が何でも逃げてやる!! 異世界転移令嬢のやり直し
Bom-🧠寺
1話 飽きた、とは言いましたけど
飽きた、をご存知だろうか?
やり方は以下の通りである。
五cm四方の紙を用意。
次に三角、逆三角――六芒星を描く。
三角が重なり合う中央に、飽きた、と書く。
最後に、その紙を枕の下に置くか、手に持ったまま寝る。
以上。
成功するとどうなる?
この世界に飽きた、つまり別の何処か――異世界に行ける、という都市伝説だ。
飽きたの他に、異世界エレベーターだとか、タットワの技法だとか類似したものはあるが、異世界から帰還したものの証言はどれも近いものがある。
文字は読めそうで読めない、普段から目にしているそれに近いのに異なるもので、街並みも大差はないらしい。
言葉は通じたり、通じなかったりでまちまち。スーツの男が助けてくれたりするというケースもあるそうだ。異世界というより並行世界に近いのだろうか。
さて、数ある中で飽きたを選んだ理由だが、単純に楽だからである。なにせ描いて寝るだけのお手軽さだ。
なぜこのようなことを行おうとするのか?
この世と、なるべく楽に、迷惑をかけずに離れたい。それだけだ。ただの破滅願望。
「そんなに上手くいくはずもない」
眼前に広がるのは確かに元の世界に近い、しかし決定的に何かが違う。
建物は見慣れた鉄コン筋クリートでも、木造建築でもない。鉄コン筋クリートには似ているのだが、窓がなかったり、つるりとした円柱形だったり、尖っていたり。
デザイナーズ物件だとか言えばそれらしいのだが。
異なる点はまだまだある。
電柱はなく、空は広々としているし、舗装されているらしい地面もコンクリートではないようだ。歩けばコンクリートより密度が軽そうな音がする割に、硬質であるように感じる。また商店らしい看板の文字はカタカナと漢字を混ぜたように見える。――未だに読めやしない。
「お嬢様」
「……早かったな、見つかるの」
未だ、そう。
わたしはこの世界にやって来た、転移者だ。
異世界というより、並行世界に近いらしく――先程は異なる点を挙げたが――元の世界との共通点も多い。見知った顔――けれど別人――を見つけては驚くことも少なくない。
「またそうやって。式は明日ですよ、早く帰りましょう」
「はいはい、分かりましたよ。サナ」
「サナサキです、覚えてください。
それに、お嬢様はサキと呼んで下さいましたよ」
「じゃあこれからはサナだ」
「あのですね」
侍女のサナサキ・ククラゥギはわたしの腕をしっかりと掴んで歩き出した。
顔はわたしのかつての友人、倉木紗菜にそっくりなのだから落ち着かない。
何故平々凡々な市民であったわたしに侍女などいるのか? 答えは単純だ。
『リィザ・カリィダ』
『
『あなたはわたし』
『わたしはあなた』
――生き残りましょう、お互いの分まで。
――謳歌しましょう、交わらないけれど。
交わした約束は、黒いスーツの男が見届けて、並行世界の同一人物――わたし達はお互いの世界を捨てたのだ。
そう、つまり並行世界のわたしがリィザという名前のお嬢様であった。
それだけの話である。
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