俺の不可思議なキャンパスライフ 〜魔界のトラブルシューター、下界で白衣の教師役を任される〜
夏乃 夜一
§プロローグ 【闇の勧誘】
霧雨に煙る、ここは下界……
ビル街に
交差点では事故処理に追われるポリス。自由の女神が微笑むのはさて、いつまでだか――
俺はモナーク・レイブン。魔界でもちょっと名の知れた逸れ魔族。
"ブラック・レイン"が俺の通り名だ。
この際、俺の容姿も少々。魔界ではタキシードを着用、髪は黒髪のロング、背は人間より少し高め。紫色の魔眼が俺のトレードマークだ。
下界ならタキシードより礼服の方が利便性は良いだろう。冠婚葬祭とは良く言ったものだ。
余談だが、俺は戦闘魔族の生き残り。逸れ魔族と言ったのはそういう意味だ、なので単独行動を取るのが俺のセオリー。群れて戦うのは御免だ。
魔界にもそれなりに割り当てられた仕事、任務というものがある。
役割りは階級によって様々だが、俺の担当は人間の勧誘。下界へ降り立ち、黒い心を持つ者の確保。
腐り切った人間は、下界にとっても滅びの対象、それらを無償で引受けるのだから、文句など有って無いも同然。罪人が消えようが死のうが我関せずの役人ども、人間も結構シビアよ。
魔界を安定させるにあたり、人員確保もある意味必須。そう、リサイクル活用法、つまりギブアンドテイクだ。
下界でも流行ってるんだろ? リサイクル。
では先ず、手慣れた人員選抜からだ。この大国なら候補者を見つけるのも
顔の良し悪しも判断基準のひとつ、魔族は貧相で不恰好では評判も落ちる。
魔界もそれなりに工夫と苦労は付きものということだ、なので"面倒くさい"が俺の口癖になったのは言うまでもない。
これはちょうどいい、前から体格のいい男と、クチャクチャとガムを噛む細面のギャング系2人組。
外見は最悪、こんなものかと、男達のそばへ近寄り品定めを開始。
《サーチモード》
俺は魔眼で男達の全身をスキャン、悪の蓄積量を読み取る。
なるほど、悪業を当たり前の事として人生を送ってきたようで、闇が根を張り腹の中は真っ黒だ。
身体に異変を感じた男達の足が止まる――
「うわ、何か悪寒が……寒っ!」
「ヒェッ、俺も……ゲッ! 鳥肌が……」
案ずるな、ただのテイスティング。何事にも手順というものがある、先ずはシチュエーションから。
俺は自ら男達にぶつかる。何とも定番な手法だが、これがいちばん手っ取り早い。
「ドンッ!」
「オッと、これは失礼」
「ヘイブラザー、いま肩が当たったんだがなあ」
「ヘヘッ、ビューイングか、それともミサか? モーニングなんか着てよ、ちょっと俺達に付き合いなよ。な〜に、すぐそこまでさ、ケへへへッ!」
案の定、喰らい付いてきた。低級な輩は意外と素直で有難い。
俺も素直に男達に両腕を掴まれ、近くの公園へと連れ込まれた。バンっと俺を突き飛ばす。
「オレ達に当たったのが運の尽きだ。この世はマネーで回ってんのさ、意味わかんだろ?」
「お金? 俺には回って来ないな、確かめるか?」
「チッ! 面倒くせぇ野郎だ、その高級そうなモーニングを脱いでもらおうか、おら早くしろよ! 痛てぇ目にあいてえのか!」
「参ったなぁ、この服は特注でね、そこらの物とは違うんだよ。それよりだ、君達にお似合いの世界へお連れしたいんだが、どうかな?」
「はっ? 逃げようったってそうはいかねぇ。おいコラッ! マジでぶっ飛ばすぞ!」
「ハァァ、勧誘失敗。仕方ないか……」
「ムカつく野郎だ! 思い知らせてやるっ!」
男が拳をかざし殴り掛かってきた。俺は尽かさず魔界への扉を召喚する。
「魔境ゲート『シムティエール』」
翼の模様が彫られた魔石の大きな扉が頭上に現れる。俺専用の魔界墓地。
やがて扉が開き、白い霧が立ち込め俺達を包む。
「お前らに当たったのが運の尽きだって? それは俺の
「《ナイトメア》」
魔文を唱えると、男達の頭上に灰色の雲が湧き上がり、次第にポツポツと黒雨が降り始めた。黒く染まりゆく男達、悪夢という黒い雨に狂気する。
「人間よ、さらば。《ブラック・レイン》」
「オ、オイッ、何だよこれは気持ち悪りぃ……アッ!痛え、痛えー! ギャーアアアッ!」
「た、たすけて……グヘ……グブッ……ゴブ……」
黒く濡れた男達の身体が、ゴムの様にボコボコと弾け、次第に邪悪な魔物へと
「…………グヘェ、グッ……ガル……ガルル……」
魔物と化した男達は、魔界の扉に吸い込まれ姿を消した。
「"デッドエンド"魔界で楽しい労働生活が待ってるよ、その哀れな姿で頑張ってくれたまえ。フッ」
合図とともに魔界の扉は閉じられた。霧は晴れ、公園は何事もなかったかの様に人が通り過ぎる。
雨も止み、人々が街へ
俺は叫び声を
「キャー! ああ誰か、誰か助けてー!」
「おい! 走れー! 通り魔だー!」
「えっ、通り魔? おいヤバい、逃げるぞ!」
ひとりが慌てて逃げ出すと、我先にと
俺は平然とその場に立ち止まり、通り魔を待つ。
「今日はツイてるなあ、3匹目確保だ」
手にナイフを携え、背の高いがっちりとした風貌の男が、
だかしかし、しかしだ、俺には見えてしまった、男の肩に乗る小魔の姿を――
小魔、いたずらに人間を
1割強はこいつら小魔の仕業さ。おそらくあの大男も唆されたんだろう、目に正気はある。
ハァ、仕方ないなあ……。
俺は男をスッとかわし、すれ違い様に小魔の尻尾をわし掴み、そのまま路地裏へ連れ去った。
「おい、こんな真っ昼間から何やらかしてんだよ」
「ゲッ! レインの旦那! なんでいるでやんすか? まさかオレっちを捕まえに?」
「仕事だよ。いたずらもほどほどにするんだな」
「へへ、ハイでやんす。いえね、アイツがイライラしてたでやんすから、ジョギングってささやいてやったでやんすよ。あ、オレっちはオニオンでやんす、どうぞよろしくでやんす! ゲヘヘ!」
ナイフ持ってる奴にジョギングさせんなよ、なにがオニオンだ、ベジタブルか!
「ああもう、わかったからさっさと魔界へ帰れ」
「了解でやんす!」
小魔は言うなりスッと消えた。あの男も憑き物は去ったんだ、そのうち正気に戻るだろう。
その後のことは自分でなんとかするしかないな。
さて、目的地へ急ごう――
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