「竜を倒したなら、災いが起こるだろう」
卯月 幾哉
本文
むかしむかし、あるところに勇かんで気だてのやさしい戦士がいた。
名をファルスという。
ファルスがある国のはずれを旅していたときのことだ。
彼は、山の近くにある小さな村に立ち寄った。
ファルスの出で立ちを見た村の若者は、彼にこんな話を聞かせた。
「ごりっぱな戦士の方、どうか私どもの話を聞いてください。
実は、昔から近くの山に恐ろしいドラゴンが住みついておりまして、苦労しているのです。みなあの竜の鳴き声を聞くだけですくみ上がってしまい、狩りや山菜とりもままなりません」
ファルスはそれを聞いて、いてもたってもいられない気持ちになった。
「それはなんぎなことだな。よし、この俺に任せておけ」
こうしてファルスはドラゴンを退治することにした。
話を聞いた次の日、ファルスはさっそく山に向かい、ドラゴンと相まみえた。彼は一日中ドラゴンと戦って、ついにその首を切り落とした。
帰って来たファルスに村人たちは大いに感謝し、彼の名声をたたえたという話だ。
……ファルスは知らなかった。村の長老だけは、ドラゴンと争うことに強く反対していたということを。
それから一年後のことだ。
ファルスが再びその村を訪れると、村はほろびてなくなってしまっていた。
ふしぎに思ったファルスは近くの町まで行って、事情を知る者をたずねた。
すると、ある男がわけ知り顔で次のように語った。
「ああ、あの村か。知っているとも。村がなくなったのは、トロールどものせいさ。
なんでも、トロールをエサにしていたドラゴンを退治してしまったやつがいてな。そのせいで、しばらくしたらトロールがわんさか増えて、村におそいかかったって寸法よ。かわいそうになあ。大人も子どももみーんな、トロールどもの腹の中だ。
……なに? ドラゴンの被害はなかったのかって? ……おいおい。兄ちゃん、モノを知らねえんだなあ。ドラゴンが人をおそうことはめったにねえのさ。あいつらは頭が良いからな。人間様に手を出したら退治されちまうってことを、ちゃあんと知ってるのさ」
はっはっは、バカなやつがいたもんだなあ、とその男が笑いながら話すのを聞き、ファルスはひざから地にくずれ落ちてなげきの声を上げた。
(了)
「竜を倒したなら、災いが起こるだろう」 卯月 幾哉 @uduki-ikuya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます