異世界からの『脱出』を目指して

強欲の成素

プロローグ 転移者

 部屋の中の学習用の机の上に顔写真の付いたエントリーシートがあった。たくさん書き直しされたエントリーシートには名前は、成噛和弥と書かれている。それに付け加え、床には服やペットボトルと缶が散らかっている。キッチンの洗い場にもフライパンとカップ麺の殻があった。

 そんな窮屈な部屋に成噛和弥は立っていた。

「外食しよう」

 成噛は一人暮らしの中、就職したばかりの新入社員で仕事をしても何もうまくいかず途方に暮れていた。

 玄関を出て住宅街の風景を見ながら外をぶらぶらと歩いた。

 飲食チェーン店に行き、牛丼の並盛りを注文した。

「いただきます」

 合掌し終え、静かに食事をした。

 会計を済ませ、店から出た。

「ハァー」

 大きな溜息を吐いた。

「帰り公園によろっかな」

独り言をぶつぶつ呟きながら成噛は近所の公園へと向かった。

 公園には、滑り台とブランコと、ベンチがあった。滑り台はよく使われているが綺麗に整えられ、ブランコも同様に整えられ風に揺られている。そして背もたれのある整ったベンチに成噛は中央に座り背もたれの上に腕を横に、脱力した体勢で座り込んだ。

「ハァー…こんなに頑張ってるのに全くうまく行かない。俺はやっぱ社会不適合者かよ」

 下を向きながら呟いた。

 自分を惨めな存在だと思ってしまった。

「フハッハッハッ」

 慰める思いで目を閉じベンチの背もたれに寄りかかりながら背を伸ばし両手で腹を抱え顎を空に向けて大笑いした。

 腕を背もたれの上に伸ばし目を見開いて空を見上げた。

 白く綺麗な満月と微かに見える黒い雲を見ながら成噛は空想の中で、自分の身の回りの事を熟し、大切な人を守り抜く、自分には遠い存在のことを妄想に耽てみた。

「もし、異世界に行けたら俺は最強なんだろうな」

 確信もないのになぜ、そう思えたのだろうと月を眺めながら考えた。

「馬鹿じゃね。何いたい事言ってんだよ」

 馬鹿馬鹿しい妄想をやめ、目を閉じながら口と鼻で同時にゆっくりと吸って、吐いての呼吸を三回程繰り返した。

 そうしたら瞼の奥から強い光が差し込んできた。それに驚き両腕で強い光から目を隠した。

「なんだこれは」

 腕を軽く伸ばし、影から強い光の正体を見たら円を中心に幾何学模様が描かれた魔法陣だ。

 成噛は光に包み込まれた。

 その強い光が徐々に弱まり、目を細めて開けると、そこはさっきいた公園の光景ではなかった。

 ナルガミの目の前には西洋の甲冑と鎧、剣を腰に携えた人が四人、兵士の中心には黒の古臭い正装を着た神官の様な人が立っていた。木製の柱に囲まれ、灯りは松明が壁につけられていた。

「あの……」

 ナルガミは絶句した。

「ここって……どこですか」

 兵士の人たちと神官の人は蔑む様な目でナルガミを見ていた。神官の人が口を動かした。

「あなたは異世界転移者です」

 目は変わらず蔑まれているのと同様に丁寧な口調だが歓迎されていない事をナルガミは察した。

「えっ?へッ……ハハッハッ…ハー……」

 多くの疑問が浮かび、苦笑の後に溜息をついた。ナルガミは顎が緩み、口が開きっぱなしになった。

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異世界からの『脱出』を目指して 強欲の成素 @eggplant_of_greed

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