プリンセス・クリスティーナと見習い門番

プリンセス・クリスティーナと見習い門番

クラッジ王国の12月。冬が訪れた時のお話です。


クラッジ王国の王様のお父さん、先王のクラッジ・アレクサンドルが住むお城は町から少し離れた、森のそばにありました。国のみんなは、アレックス・コテージと呼ぶ場所です。

その場所は12月ということもあり、深い雪に覆われていました。


白銀の世界に、夕暮れの空から星々がきらめき始める頃。

お城の中では、小さな物語が始まろうとしていました。


クラッジ・アレクサンドルの孫である、今の王様の娘、クラッジ・クリスティーナも、この日は、おじい様のお城アレックス・コテージに来ていました。

クリスティーナは、お城のみんなからは、ティナと呼ばれています。


ティナの居室では、メイドのエマが丁寧に暖炉の火を整えていました。

暖炉の前では、灰色の毛並みの猫のシルバーが、まん丸く丸まって眠っています。


「エマ、いつもありがとう」


クリスマスカードを書きながら、ティナは微笑みかけました。机の上には、たくさんのカードが重なっています。今日一日、ティナはみんなへの感謝の言葉を、一枚一枚、心を込めて書いていたのです。






その時、お城の門では、新しく配属された若い兵士のトーマスが、寒さと戦いながら門番の任務についていました。

軽い鎧越しに冷たい風が身体を包み、指先は動きにくくなっていました。


「はぁ...」


白い息を吐きながら、トーマスは手を擦り合わせました。クリスマス前のこの時期、お城への出入りは普段以上に多く、商人たちの往来が絶えません。


「ちょっと待って!荷物の確認をさせてもらいます」


疲れと寒さから、トーマスの声は必要以上に強くなっていました。商人は少し驚いた表情を見せます。


「トーマス」先輩兵士のウィリアムが、静かに声をかけました。「もう少し柔らかく接するといい」


トーマスは顔を赤くして頷きました。






その頃、ティナの部屋では...


「ここは暖かいね、シルバー」


ティナは暖炉の前で、まだ眠そうな目をしているシルバーを撫でていました。


「エマ」


ティナはポケットからカードを取り出しました。


「これ、あなたへのカードよ。いつもお部屋を暖かくしてくれて、ありがとう」


エマは嬉しそうにカードを受け取りました。


「どういたしまして、ティナ様。これからも何なりとお申し付けください」


「お城の中を回ってみたいの」


ティナが言うと、エマは部屋の外で待機している兵士に一声かけました。


ティナは、調理場や、馭者ぎょしゃ(馬車の運転士)の部屋、庭師の部屋と使用人たちがいる部屋をつぎつぎと訪ねて、お城の中を巡りました。


出会う人々に、一枚一枚カードを手渡します。


「マーサ、いつもおいしい料理をありがとう」


「ジョン、馬の世話、ありがとう」


「トム、きれいな庭をいつもありがとう」


エマが尋ねました。


「アレクサンドル様へは?」


「おじい様には、夕食の時にお渡ししようと思うの」


ティナは微笑みながら答えました。


最後に城門へ。トーマスとウィリアムは、ティナが近づいてくるのを見て、背筋を伸ばしました。


「ウィリアム、いつも城を守ってくれて、ありがとう」


ティナはウィリアムにカードを渡し、次にトーマスの方を向きました。


「トーマス、寒い中ありがとう。まだ慣れない中で大変だと思うけど、これからもよろしくお願いします」


トーマスは驚きました。プリンセスが自分の名前を知っているなんて。そして、自分の立場まで理解してくれているなんて。


ティナが去った後、ウィリアムが静かに言いました。「ティナ様は、誰にでも気を配り、努力家で、優しい方なのだ。そういう方に仕えられることを、私は誇りに思っている」


雪が静かに降り始める中、トーマスは心に誓いました。もっと優しく、でも確かな強さを持って、プリンセスと国民を守る兵士になろうと。


空には、まだ星が輝いていました。その光は、まるでティナの胸元で光るペンダントのように、優しく世界を包んでいたのです。


おしまい


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【クラッジ童話】プリンセス・クリスティーナと勇気のペンダント 坂道光 @sakamichikou

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