第5話 第一回、『いもうと♡すきすき選手権』を行いますッ!
「タール~~~!」
「サキ!!!」
感動の再会を果たしぎゅっと抱き合う2人。一方は羽の生えた美少女。一方は黒髪のエルフ。またバックグラウンドは書籍が浮く幻想的な図書館という、感動の再会シーンの一幕が今、目の前で繰り広げられている。ちょっと待ちなさいよ、お姉ちゃんもいるんだぞ。
「そこどきなさい!妹の横にいるのはお姉ちゃんと相場が決まってるんだ!!」
抱きつく2人の間を割くように、頭からぐりぐりと割り込みに行く。くそ、結構力強いな!?
「お姉ちゃん、髪ぼさぼさになっちゃうよ?せっかく可愛いのに」
「お姉ちゃんは髪ぼさぼさでも可愛いですー!そんな事より、どきなさいよキュスタールとやら!そしていきなり抱き着くのはどうなのよ、姉の前だぞ、破廉恥でしょうが!」
「貴方こソ、せっかくノ再会を邪魔するなンて、無粋なのでハ?」
ぐい、と真上から頭を掴まれて引きはがされる。見上げるとキュスタールがこちらを冷ややかな目で見ていた。思っていた以上に身長がありちょっと怖い。が、ここで引くわけには行かないんだから。なにせ私はお姉ちゃんなので。
とはいえ、体力自慢でもない私は仕方なく一度身を引いて改めてキュスタールを眺める。映像だけではわからなかったが、割と高い身長に、CMにでも出てきそうな艶やかな黒髪。こちらを敵対視している少しつり目気味な目元に若干の恐怖を感じるが、そもそも顔が良いので表情に少しでも棘が出ると凶器のような印象になるのだろう。その証拠に、見てあの顔。
「サキ、大丈夫でシたか?向こうに帰ってカラひどい目にあったリしていまセんか?ちゃんとごはん食べテマすか?いじめられタリしてイませんか?いつでモこちラに永住してイイんですヨ?」
「大丈夫だよ~!もう、心配性だなぁ。私結構強いんだよ?」
「ならいいんデスけど……」
さっきまで私に向けていた視線は何だったのか、もう完全に目じりは下がっているし、完全無欠の美青年みたいな顔をしている。なんなら犬のしっぽの幻覚でも見えてきそうな感じ。
「うへぇ……怖ぁ……」
「なんデスか?」
「いいえ〜?なんでも〜?ただ人によって態度を変える人って、嫌な感じよね~と思っただけで」
ばちばちと目線を交わす。咲もさすがに気になったようで、ぱっとキュスタールに抱き着いていた腕をほどき、私たちの間に立つ。
「まぁまぁ。ねね、二人とも実際に合うのははじめましてでしょ?なんかもう険悪だけど……改めて紹介するねっ!よくドラマとかで見るこの、お互いを紹介する展開。ちょっとあこがれだったんだよね~」
うは〜!ドキドキするぅ~!なんて言いながら咲はもじもじしている。大変いじらしくてよろしい……花丸!荒んだ心に可愛い妹成分が行き渡る感覚、サイコー!確かに、目の前のこいつはいけ好かないし、すでにもうだいぶ気に食わないけど、咲が紹介したいんなら聞きましょう。まぁ、別に私だって意味もなく敵対したいわけじゃないし。
ただ目の前でこう、イチャコラされるのが嫌なだけで……っ!
「こほん!では、おねえちゃん?こちらはキュスタール・ルスランさん。私の命の恩人でもあり、彼氏でもあります」
「ぅぐ……ッ!!!」
「お姉ちゃん!?」
あ、改めて咲の口から「彼氏」というワードが出ることに拒否反応が!いやでも咲だってもう大人だし……でもでも咲は私の可愛い妹だもん……!
「はじめましテ、お姉さん。ゴ紹介にあずかリましタ、キュスタール・ルスランでス。どうゾ末永くよろシくお願いしマスね」
こいつ、めっちゃいい笑顔してやがる!しかもこっち見てちょっと口の端持ち上げて笑って……!!!こんの、お姉さんと呼ばれる筋合いないって言ったこと、覚えてて敢えて言ってるな?いい性格してるじゃない。
「んで、こちらは私の姉。花森 詩だよ」
「はじめまして。咲の姉、血を分け幼い頃から一緒に過ごし、お風呂にも一緒に入るタイプの姉、詩です」
「一緒ニお風呂……?」
「今何想像した」
「イエ、何モ」
口元を抑えちょっと引き気味にこちらを見ているのはなんでだ。
「もうおねえちゃん!最近はさすがに一緒に入ってないでしょ。変な事言わないで」
「でもこの前ホラー特「うるさーい!」」
咲が全力でこちらの口をふさぎに来る。顔が真っ赤だ、可愛いね!いやでも、言われたくない事言っちゃったか。さすがにお姉ちゃん、反省。というかそんな可愛いエピソード、こいつに聞かせてやるかってんだ。ってかそうよ。お風呂の話で思い出した。頭に血が上り切る前に、服の事とか聞かなきゃ。
「あーキュスタールさん?そういえば聞きたい事あるんですけど?」
「なンでショう」
こういうときは素直に対応してくれるから、悪い人(エルフ?)ではないんでしょうけどね……。
「なんで貴方、私のこの姿の事知ってるの?」
「ソレは魔法デこう、ちょチョとしましタ」
得意げに指先で宙に円を描きながら答えるキュスタール。え、何ちょちょって。そんな簡単な感じで私の事を知ってるの?怖いよ?
「違うよー、咲が言ったの!お姉ちゃんもキュスタールみたいな恰好してるんだよーって」
「サキ、ネタバラシが早いヨ……」
やれやれ、と言いたげに額へ手を当てため息をつくキュスタール。その恰好似合う人っているんだ。人じゃないけど。
「こちらは、チキュウとやらと環境が違うのデ。来ていたダク際は、ちょっトお2人の身体情報を改造しナイといけないンですよ。その際、自分像のイメージがアルなら、その姿に合わせ変容させルのが一番効率がイイと研究結果ガ出ていマス。なのデ事前に咲カラ聞いていたんデスよ。お姉サンの特徴ヲ」
「なんか知らない間に、私の体改造されてない?」
「そうシナいと、こちらデハ息も吸えませんヨ」
「……じゃあしょうがないか……いや、しょうがないかなぁ」
事前説明が合ってもいいと思うんだけど。でももうこっち来ちゃったんだからしょうがないのか?うーん。いやでも、それだったら気になるのがもう一個ある。
「それなら咲がその姿なのは?私は服装も変わってるのに、咲が変わってないのはおかしいでしょう。こんなに可愛いんだから、もっと豪華なドレスとかになってもいいと思うの!」
「それは自分もソウ思うのですガ、サキがそのままがいいト言ってイタので。意見を尊重した結果デス」
「そうなの?」
「だって、お姉ちゃんいつも『咲はお洋服も良く似合っててかわいいねぇ』って言ってくれるから」
見よこの世界。うちの妹はこんなにもかわいい......!思わず咲の元に駆け寄って頬をすりすりする。キュスタールもこっちを見ているようだが、まだお前にはさせん。これはまだ姉の特権なんだから!
「まぁ、服装の理由はわかったけど。何はともあれ!私は貴方の事を、咲のか……かれ……彼氏!なんて!認めないんですからね!」
「認めてモらうモ何も、私はすでニ彼氏ナノですが?」
とうとう腕を組んで胸を張り始めたキュスタール。いいでしょう、それならこちらにだって考えがあるんだから。同じように腕を組み言い返す。
「へぇ〜ふぅ~ん、彼氏ねぇ~~?たかがここ数年の咲のことしか知らないくせに、何理解者みたいな顔してるんだか」
「……ホう……?たかガ同じ家に生まれタだけで、よク言いますね」
「ちょ、ちょっと?二人とも?」
咲が止めようとしている気配を察知するが、今は無視。心の中で謝っておく。ごめん咲、これは絶対に譲れないの。妹の顔には笑顔が浮かんでるのが一番似合うし、そのためには彼氏もどきの事で悩ませるわけにはいかないから。
「私は咲が幸せになれれば、最終的にはいいのよ」
「それに関してハ同意でキますネ」
「えへへ……ありがとぉ」
「なので」
さぁ、勝負だキュスタールとやら。覚悟はいいか!
「第一回、『いもうと♡すきすき選手権』を行いますッ!」
「何言ってるのお姉ちゃん!?!?」
咲の叫び声が森に響いた。
妹の彼氏がどうやら異世界のエルフだそうですが、うるせえ妹を一番愛しているのはエルフVtuberの私だそこをどけ! つじ みやび @MiyabiTsuji2525
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