こっくりさん


放課後の教室、陽の光が徐々に薄れていく。


雪は友人の美奈、涼介、加奈とともに、神社から持ち帰った古びたお守りを囲んでいた。


彼女たちの目には興奮の色が見え隠れする。



「本当にこのお守りを使って、こっくりさんを呼び出せるのかな?やばいね!」



と美奈が目を大きく見開く。



「試してみようよ!」



涼介が笑いながら言った。


雪は、一抹の不安を感じながらも、一緒にやってみる事にした。


彼女たちは、お守りを中央に置き、手を繋く。心を静め、呼びかけを始める。





初めは何も起こらなかったが、何回か呼びかけるうちに空気がガラリと変わった。



加奈の顔がほどなく急に青ざめる。



「な、何か、いる…」



彼女の言葉が教室に重く響く。




しばらくすると、涼介が



「こっくりさん、私たちに何かメッセージを伝えてください」



と言った。


すると、お守りが自ら動き始めたのだ。



徐々に、指先に導かれるように動くその様子に、雪は思わず息を呑む。


メッセージは“大切なものを返せ”とだけ告げた。




雪はその言葉に戸惑いながらも、



「返せって、何を返せばいいの?」



と尋ねる。


すると、再びお守りは動き、指さす先は教室の窓際だった。



彼女たちは目を合わせ、次第に不安が広がっていった。



「もしかして、私たち、何か悪いことをしちゃった…?」



美奈が小さく呟く。


その言葉に、雪は過去の出来事を思い出した。


数週間前、彼女たちが話していたクラスメートの香織が突然学校に来なくなった。



「香織のことじゃないよな?」



涼介が不安そうに言った。雪は胸騒ぎを覚えながらも、否定することができなかった。




その瞬間、教室の明かりがチカチカと揺れ、冷たい風が一気に吹き込んだ。


雪たちは動けなくなり、再びお守りに視線を戻す。



「香織?香織だったら、私たちに何を伝えたいのか教えて!」



雪は叫んだ。


お守りは再び動き出し、



「かえせ、私の友達をかえせ」



と続けた。雪は思わず、



「香織のことを言っているの?」



と声を震わせた。彼女たちは互いに目を見交わし、今、彼女たちがこっくりさんを呼び出すことが、どれほど危険な行為であるか分かってしまった。


しかし、彼女たちはこの好奇心に負け、そのまま遊びを続けることにした。




再びお守りを中心にして手を繋ぎ、


由美は



「もう一度、こっくりさん、私たちに教えてください」



と言った。しかし、その瞬間、教室の明かりが消え、暗闇が包み込んだ。


教室の中に、香織の声がかすかに聞こえた。



「助けて…」



驚いた雪は咄嗟に、「香織?」と呟いた。



そこにいる皆も声を失い、動けなくなった。


明かりが戻ると、そこには香織の姿があった。


だが、彼女の顔は恐ろしいほど無表情で、目は虚ろだった。



「香織…なにしてたの?」



美奈が声をかけるが、彼女は静かに



「かえして…私の大切なものを」



と言った。その瞬間、教室の窓が音を立ててバンッと開き、また風が吹き込む。


香織の姿は徐々にぼやけて、消えかけていく。



「何を返せばいいの?」



雪がそう言うと、香織の声が「私…」とだけ告げると、彼女は完全に消え去ってしまった。




雪たちは、恐怖に震え上がりながらその場から離れられずにいた。


もうやめよう、と彼女たちがこっくりさんの遊びを終えようとしたとき、


お守りが再び動き出し、指さす先が雪の足元へと向かった。


雪が恐る恐る見ると、そこにはかつて香織が持っていたネックレスが落ちていた。



「これ、香織のネックレス…」



美奈が驚き、か細い声で呟く。



「でも、どうしてここに…」



雪はそれを拾い上げ、恐る恐る振り返った。


すると、教室の壁に無数の文字が現れ、
































雪たちはその場から逃げ出そうとした。


しかし、体が動かない。恐怖に苛まれながら、彼女は思わず香織の名前を呼んだ。



「香織、お願い、お願い、助けて!」



その瞬間、香織の声が響き渡る。



「あなたが私を呼び寄せた。返して、私の大切なもの」



そして彼女の姿が再び現れ、由美に近づいてきた。


由美は恐怖に駆られ、ネックレスを手にしながら


「ごめん、ごめん、そんな」



と口にするが、その言葉は上手く声に出せず掠れる。


香織は静かに言った。



「大切なのは、あなたの友達…」



彼女の最後の言葉が教室中に轟音として響く。













雪はその瞬間、全てを理解した。


彼女たちの遊びが招いた恐怖の渦中に、自らが引き込まれていく様を。

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41332444 翡翠 @hisui_may5

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