花言葉

@anemone426

第1話

泣き明かした夜 月の光が静寂した部屋を包み込んだ


途方に暮れた僕を嘲笑うように冷たい風が頬を撫でる


「生きててもなにもいいことがないな。」


そう呟く声は誰にも聞こえることのない独り言として宙に舞う


「死にたいの?」


隣で微笑む彼女は僕をそっと抱きしめた


「どうだろう。君と一緒にいれるなら…」


彼女の小柄な背中にしっかりと手を回す


うるさいくらいに頭に響く時計の音が心地よく


僕はゆっくり目を閉じた


「あなたならそう言うと思った」


意地悪に美しく笑う彼女の瞳に影が落ちる


「あなたが私にくれた花、シオンって花なのね」


寂しげに揺れる一輪の花を見つめ僕の手を握った


「…私そろそろ行かないと。」


僕の顔をゆっくりと撫でそっと髪に触れる


「どうして?まだダメだよ。僕を1人にしないで。このままじゃ僕は」


「ほら、このままここにいたらあなたは今より強くそう思ってしまうでしょ」


彼女はそう言って静かに立ち上がった


「…遠くにある人を思う、だっけ。シオンの花言葉」


「そうだよ。君と僕にピッタリの花だろ」


「そうだね。素敵な花。でもこんなに綺麗なのにいつかは枯れちゃうんだね。もし枯れて花が散ったら…」


遠くを見つめ彼女は儚く声を漏らした


僕と目が合うとハッとした顔を僕に向ける


「これで本当にさよなら」


彼女はもう一度僕を強く抱きしめた


「さよならじゃないよ。僕等はまた逢える。」


彼女の体から手を離し視線を合わせると


照れくさそうに笑う横顔に僕はもう一度恋に落ちた





静まり返った空間にただ独り孤独を噛み締める


「…もう一つの花言葉…言い忘れてたけど知ってる?」


僕はそこにいない彼女の名前を呼び、問いかけた


「君を忘れない。って言うんだけど気に入った?」


君は忘れられるのを怖がっていたけど


僕が生きていれば忘れられることはないから


光差す花を手に取り深く呼吸をする




「今日も君を忘れないように生きることにするよ」



力無く笑い 手を合わせる僕の目には



いつまでも美しいままの君が映っていた

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