第13話

 氷岬さんは僕と一定の距離を開けながら歩く。


「ねえ、輝一くん。ちょっと公園に寄り道しない?」

「うん、いいよ」


 氷岬さんに誘われ、僕たちは公園に立ち寄る。公園では子供たちがキャッチボールをしている。僕たちは自動販売機でジュースを買うと、ベンチに腰掛けた。


「今日は楽しかったわ。ありがとう」

「こちらこそ楽しかったよ、ありがとう」


 ジュースに口を付ける。炭酸の泡が口内で弾け、喉を潤す。

 氷岬さんはジュースの缶を両手で持ち、そっと口を付けている。


「えっと、輝一くん。輝一くんと出会って随分経ったわね」

「そうだね、半年ぐらい?」

「私たちすっごく仲良くなったと思うの」

「そうだね」

「そろそろ、付き合ってみない?」


 突然のことで、何を言われているのかわからなかった。言われた意味が分かった時、僕は驚いて咽る。


「付き合うって、どこに?」

「男女交際してみないって意味よ」

「なんでまた」

「輝一くんのことが好きだから」


 氷岬さんの目は真剣だった。頬を赤く染め、目を潤ませている。

 

「なんで僕のこと好きなの?」


 そう聞くと、氷岬さんはジュースを呷ると、静かに語り出す。


「輝一くんは私と友達になってくれた。こんなコミュ障の私と、仲良くしてくれた。あなたの前だと緊張して、私ダメになってしまうわ。だからいつも失敗ばかり。それでも輝一くんは笑わずに私を見てくれる。そこが好きなの」


 真剣味を帯びた氷岬さんの声が、僕の耳朶を強く打った。真っすぐに入ってくる透き通った声が、僕の心に温かみをもたらしてくる。


「氷岬さん、僕は氷岬さんのことが好きなのかわからない。可愛いとは思うけど。それでもいい?」

「かまわないわ」

「だったら付き合ってみる?」


 僕は氷岬さんの目を真っすぐ見てそう問いかける。氷岬さんは両手を口に当てて、目を潤ませると静かに「嬉しいわ」と答えた。


「少し早い誕生日プレゼントね」


 氷岬さんが嬉しそうに口の端を緩める。こんな氷岬さんのにやけ顔は初めて見る。

 ポンコツなところも可愛いし、これからもっといろんな顔を見ることになるだろう。

 僕は氷岬さんの肩を抱くと、小さくキスをした。氷岬さんは驚いていたが、顔を綻ばせると、キスを返してきた。

 僕の心が幸せで満たされていく。これからもこんな幸せがずっと続いていくのだろう。

 それはポンコツな彼女と共に。

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僕だけにポンコツな一面を見せてくるクールな氷岬さん オリウス @orius0

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