冬の夜空で

白崎 奏

本題

〈ごめんね。今までありがとう。〉


突然幼馴染から連絡が来た。

時間は午前3時。

まだ明け方と言えるには早かった。


〈どうしたんだ、急に〉


〈何かあったのか?〉


〈また、話聞くぞ?〉


続けて送ったもののすべてが未読。


何かがおかしかった。

いつもの彼女なら、俺のメッセージには恐ろしいほどに早く既読を付ける。

なのに、いまだ未読なのが怖かった。


ふと縁起でもないことを頭に浮かべた。

最近彼女は鬱っぽかった。


話にはよく乗っていたものの、それでもやはり彼女の病は治る気配がなく毎日が不安だった。


そんな中で届いたこのメッセージ。

何か勘づいてしまうのは当たり前だった。


電話をしてみる。

真夜中の部屋で発信音が響く。


それがやがて1分。



2分。



俺の脳内はとっくにアラートを鳴らしている。



3分。


その時間が経ったと同時に、俺は家を飛び出した。

彼女にもしものことがあったら…そんなことを考えてしまった。


彼女の家まではそう遠くない。

俺は全力ダッシュ。

こんな寒い冬の空。



「おい、居るか?ってあれ?」



まさかのドアは空いていた。

でも、靴は1足もない。


彼女の親は年中ほとんど家に帰ってこない。

1足でもあれば、彼女が居るって少しは安心出来たのかもしれない。


「居ない…か」


分かってた。

自分の考えをどうしても否定したくて寄っただけだった。


「どこに居るんだよったく」


また走り出す。

手あたり次第色んなところを見て回った。


午前3時、人通りなど言うまでもなく少ない。

俺の息遣いは、町中を巡り渡った。


それでも、彼女は現れない。



「本当にどこ行ったんだよ…あっまさか…」



1つの光が俺の脳内を駆け巡る。

居場所はどこか?


今ならその答えに会える気がする



たった一つの場所を目掛けて、走り出す。

距離はやや遠い。

けれどもっと速く走らなければ間に合わない。

もっと速く…


「はぁ、はぁ…はぁ」


もはや息をすることさえしんどい。

俺が倒れてしまいそうだ。

もう視界も荒れて、前が見えない。


もう目的地はあと少しだって言うのに…


「ごめん……君を助けたかった…のに」



もう駄目だった。

そんな気力は残っていない。

あと数m。

なのにその距離を走る体力すらもう残っていなかった。


結局俺は何も変われてなかった。


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まだ小学生くらいの記憶だろうか。


とある橋の上。

家から少し遠いからこそ、俺たちでは初めての冒険だった。

だからこそこのタイミングで鮮明に思い出すのだろうか。


「ねえ、大きくなったら何になりたいんだ?」


「え~逆に何になりたいの?」


「俺は医者になりたいかな。もっと勉強して、たくさんの人を助けられるようになりたい!」


「いいね。私は1つ夢があるんだ。それは-----------」


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いつの間にか地面に仰向けで倒れ込んでいた。

もう無理だ。

俺は息をすることに必死で、何も考えれなかった。





「ばかだなぁ、こんなんじゃもっと人を助けられないよ?」


「………え?」


最後の力を振り絞って目を開ける。

目の前には探していた彼女が笑いながら立っている。


「何をしてんだか。まあ私が悪いんだけど」


「良かった…本当に…」


間に合った…

その安心感で力は抜けていき、意識はどんどん遠のいていった。






「人を助けに来たはずのに君が倒れてどうするの」


いつの間にか俺は見知った場所に居た。

ここは病院…ではなく彼女の家だった。


「ごめん。」


「もう、って言いたいけど私が悪い。ごめんね」


「もう良いよ、キミが居てくれたら」


はあ、助かってよかった。

それにしても、俺が倒れてしまうとは…情けないな。


俺は彼女の膝に頭を乗せられていたことに気が付いた。

でも身体を起こす気力は無かった。

もう少しこのままで…


「今は何時?」


「もう昼の12時だよ。病院行く?」


「いやそれは大丈夫なんだけど、学校行かないと……」


「相変わらず真面目だな~ふふ」


彼女は呆れた顔でも可愛く笑った。


俺は身体を起こし、彼女の横に座る。


「頑張ってこの家に連れて帰ってきた私を見習ってほしいよ。」


「ありがとう。本当にごめんな」


「こちらこそごめん。」


彼女は深々とお辞儀した。


「色々あってさ。もうどうでも良いかなって思っちゃったの。」


俺は黙って聞く。


「でも、君は必死に来てくれて。まだ私は頑張るしかないなって。」


「君の前じゃ死にたくても死ねないよ」


「ったく」


思わず頭をなでたくなった。


「絶対に死なせないから」


「うん、ありがと」


彼女は少しずつ涙を零す。

絶対に彼女を助ける。


俺が救う。


それが俺の夢だった。

支えて、これからも一緒に生きていく。



(もう手放したくない)



そんな想いが頭から離れない。

少し落ち着いたあと、彼女はキッチンから飲み物を取ってくる。


「二人でずる休みっか。まあそれもありか」


いやなしだろ

と1人突っ込みをかました。

てか学校休んだことなんて無かったな。


初めてがこれ、まあ大事な人を守ったんだから良い…か。



「そういや、私が昔言った夢って覚えてる?」


彼女はそんなことを聞きながら

飲み物二つを持ってきて、ソファにさっと座った。。


「いや、覚えてないな」




「えへ、私の夢はね、いつまでも君と生きていくだよ。」




「私思い出したんだ、自決する寸前でそんな夢があったなって。」


「その時横見たら君が倒れてたんだよびっくりするじゃん」


「これからもよろしくね」


いつの間にか俺は彼女に抱かれていたらしい。

こんな優しい抱擁がいつまでも続いて欲しかった。

その反面、この時間がとても生感覚で、初めてで、恥ずかしくて、俺は思わず飲み物を手に取った。


そして気持ちを紛らわすために、一気飲みする。


「すっぱ!?なにこれ」


「うふ、レモン炭酸水にしてあげた」


「ったく、何してんだよ」


昔っからいたずら好きなところも変わらないな。


二人は目を合わせて笑った。



「絶対生きる、君といつまでも」



いつの間にか、雪が降っている。

まるで、俺たちの恥ずかしさを隠すように。

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冬の夜空で 白崎 奏 @kkmk0930

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