始まりの村の聖女

夢花音

第1話

目を覚ますと、目の前には見慣れない風景が広がっていた。草木が生い茂る静かな村、周囲には活気ある人々の姿があった。おばあちゃんは、いつもの布団の中ではなく、石畳の上で寝そべっていることに気づく。


「始まりの村…か?」


突然、近くにいた若者が呟いた。


どうやらここは「始まりの村」と呼ばれる場所らしい。おばあちゃんは混乱しながら、ここは一体どこなのか考えていた。

しかも、身体が軽い。恐る恐る手を見てみると、皺1つない若々しい手がそこにあった。


「おや、若返ってるじゃないか!」


けれど驚く暇もなく、村人の一人が話しかけてきた。


「娘さん、冒険者かい? パーティーを組むかい?」


「パーティー…? それはなんだい? ここはどこだい?」


おばあちゃんは昔ながらの感覚で若者に問いかけるが、彼は首をかしげるだけだった。


村の人々の会話には、英語のような難しい言葉が混じっており、おばあちゃんには理解できなかった。


「ステータスを確認してくれ!」と、誰かが叫ぶ。


「ステータス? それは、身体のことかい?」


見知らぬ単語ばかりで混乱するおばあちゃんの手元に、何やら透明な画面が浮かび上がった。それは自動翻訳されていたが、英語を見慣れていないおばあちゃんには何がなにやら分からない。


「えーと、えっち、ぴー、でいいのかい?HPって、なんだいそれは? 意味がわからないよ…」


そのうち、他の若者たちが次々とパーティーを組んで冒険に出て行くのを見て、おばあちゃんは、自分がどんな力を持っているのかもわからず、使い方も知らないまま、取り残された気分になった。


「これからどうしようかねぇ…」


おばあちゃんは溜息をつきながら、ひとまず村を歩き回ることにした。とにかく、この世界を知る必要がありそうだ。若返ったことに感謝しつつ、まだまだこの奇妙な世界に馴染めるかどうか不安でいっぱいだった。




村を歩き回って見つけた空き家。家事や畑仕事などを手伝うからと頼み込んで空き家を借りた。冒険? しない!しない!



元気な少女が村に訪れて、冒険そっちのけで、村中のあちらこちらをグルグルまわったあとに、一軒の空き家を見つけて、貸してほしいと言って来た。

家事や畑仕事も手伝うし、薬膳食堂?も営業したいとか?マキと名乗った娘は見た目16歳くらいだし、悪さはできないだろうと快く受け入れた村人たちだった。



---


魔法も使えないマキちやんに、生活魔法くらいはと教えたところ、火魔法や水魔法、ついでに光魔法も教えて直ぐに使えるようになった。これには村の若い衆もビックリ。


パーティー? ステータス? それらはおばあちゃんには全くの謎。手元に表示される「ステータス画面」も英語ばかりでさっぱり意味がわからない。


だから、今まで一度も確認したことがない。彼女はただ、自分が元々得意だった薬膳で人を助けているだけだった。


ただ、魔法に関してはなぜだか大抵の魔法は使えた。日本人としての記憶があるので、演唱もなく頭の中で考えるだけで魔法が発動してしまう。マキちやんは便利だと思うことにした。



---


しかし、この世界の人々は知らなかった。マキちやんは実はこの国が待ち望んでいた「聖女」として転生していたのだ。


しかも、彼女が持つ魔法の中で特に

癒しと浄化の、威力は無限だ。


とはいえ、本人は全く気づかず、ただ日々を穏やかに過ごしていた。


王都の王宮では、国中のあちこちに使者を送り、転生したはずの聖女を過去の姿絵をもとに探し回っていた。

姿は殆ど変わらないと伝えられていたからだ。


王宮にある聖女の玉が光輝いている。

それは新たに聖女が転生したと言う証なのだ。


「聖女はまだ見つからないのか!? 彼女がいないと、この国は滅びてしまうぞ!」


聖女が持つと言われる強大な癒しと浄化の力は、国の危機を救うために必要不可欠なのだ。しかし、どこを探してもその姿は見つからない。


「もしかして、魔物に囚われているのでは?」


「いや、まだこの街に来ていないだけかもしれん。」


誰も、聖女がすでに「始まりの村」で普通に暮らしているなど思いも寄らなかった。



--始まりの村にも王宮の使者は来た。姿絵を持って。しかし、村人たちはそのような少女は見たこともなかった。


姿絵の少女は、長いストレートな黒い髪に、黒い瞳の色白の美少女だった。

マキは(あら? 綺麗なお嬢ちゃん。日本人よね〜)と思っていた。


マキも同じ黒髪だが、光の加減では濃茶に見える。瞳の色も、なぜか茶色になっていた。

まさか、自分が探されているとは夢にも思っていなかった。


疲れきった使者は、元気になると噂になっている、マキのスープを飲んで、気力が回復し、喜んで王都に帰って行った。




そんな国の必死な捜索をよそに、マキちやんは今日も元気に村で薬膳料理を作っていた。


ある日、怪我を負った冒険者がふらふらと店に入ってきた。


「マキちゃん、ちょっとこの腕が痛くて…」



「おやおや、それならこのスープをお飲み。」



マキちゃんはいつまでもこんな口調なのだ。


マキちゃんが作った特製の薬膳スープを一口飲んだ途端、彼の怪我は瞬く間に治り、体はみるみる元気を取り戻していく。

だが、マキにとっては、これが「普通」だった。


自分がどれほど強大な力を持っているのか、まるで気にしていない。


「いつものことだねぇ。」




しかし、村の人々は徐々に気づき始めていた。マキの料理には、ただの薬膳以上の力がある。冒険者がどれだけ疲れていようが、怪我をしていようが、店から出るときには皆元気になっているのだ。


「もしかして…マキちゃんは、ただ者じゃないのか?」


それでも、マキは今日も変わらずにのんびりとした日常を送っている。


「平和だね〜」とニコニコしながら、自分が聖女だとは知らずに、心を込めた料理を振る舞い、皆に喜んでもらうことが彼女にとっての幸せだった。



---

こうして、始まりの村での彼女の日常は続いていく。マキちやんは、知らぬ間にこの国の運命を背負う存在となり、彼女の優しさと力は、村人たちの心を癒し、国を救う鍵となっていくのだった。





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