第24話 扉を開けて

 きひろ、まに、はゆうの自己紹介を玄関口で軽く済ませる。門は開いており、玄関の前までは行けるようになっていた。


「二人も今来たところかい?」


「ああ。黄色っぴから昨日のマカロンが美味しかったと昼休みの間中語られ続けて、放課後になっても弾丸のように止まらなくて、そのままついてきて、今に至る」


「まにっぴのお菓子、本当に美味しかった。みんなも美味しいって言ってた」


「分かった分かった。もう疑ってはいない。おかげで自信が持てた。ありがとう」


 視線をやると、きひろがウインクする。それを見たあをいが頷く。


「君の製菓技術は世界に広めるべきだ。そうでないと、この世界にとって非常に大きな損失となる」


「なあ、青っぴ。――俺に自信をつけさせるために、わざと黄色っぴにマカロンを渡して感想を集めさせただろう」


 もう一度、きひろと目を合わせて、あをいは首を横に振る。


「気づいてしまったんだね。けれど、それは診断士とは関係なく、単に僕が、君のお菓子を食べたいと思ったからだ」


「それは嬉しいな。だが、お菓子を配る時点で、俺にはそれなりの自信があるように見えなかったか?」


「ほんのわずかだけれど、自信なさげだったよ。それに、こういう機会でもないと案外、感想というのはもらえないものだから」


「ああ。だから、率直な感想が聞けてよかった。ありがとう」


 素直にお礼を言われたあをいは、薄く微笑んだ。


「へー、ちしおって、お菓子作るの上手いんだ。パティシエになんの?」


 何の気なく、はゆうが尋ねる。


「ああ、そのつもりだ」


「すげー……。オレ、全然作れる気しないわ」


「作ったことがなければ誰しもそう思う。興味があるなら今度、一緒に作るか?」


「面白そうじゃん!やるやる!青っぴも来いよ!」


「いや、僕は――」


「きひもやる。あをいも行く」


 断ろうとするあをいを遮って、きひろが言う。


「おっ、黄色っぴも来るのか!みんなでやろうぜ!」


「こら、きひろ。勝手に決めるな」


「んじゃ、明日の土曜日、朝十時にここ集合とかどうだ?オレん家、ここから近いからうちでやろうぜ!」


「俺は構わない」


「きひも。あをいも大丈夫」


「こら、きひろ。勝手に大丈夫にするな」


「青っぴは何か予定がある感じ?」


「……ない」


「じゃあ決まりな!」


 ――なんて騒いでいるとガチャリと、扉が開かれる。


 そこにはみいが、周りを気にしながら薄く扉を開けていた。


「……あの。人の家の前で騒ぐの、普通に迷惑だから。やめて」


「ごめんなさい……」


 反省した表情のまにとはゆうの隣で、見上げてくるきひろと目を合わせたあをいは、ウインクした。


***


 部屋へと案内するみいは、膝丈より上で少し広がった水色のショートパンツに、くるぶしソックス、上は細いボーダーの半袖Tシャツを着用していた。


「その服装……寒くないのかい?」 


「あ、この部屋寒い?温度上げる?」


「いや、僕たちは構わないけれどね。体を冷やすとよくないよ」


 冷房の効いた部屋で、あをいたちの汗が乾いていく。


「いや、オカンかよ」


「過保護な兄の癖が出ちゃった……恥ずかしい」


「僕は事実を言っているだけだ」


 はゆうときひろに指摘されてあをいが口をへの字に曲げる。


「あはは、ありがとママ。あ、ちしおクン、昨日はマカロンありがとね。めっちゃ美味しかった。マジで」


「そうか……。よかった」


「あ、みんな適当に座って。飲み物は水道水か冷たい麦茶しかないから、どっちかに決めてね。……じゃ、麦茶がいい人ー?」


 四人ともが手を挙げた。


「決定ね」


「そうだ、麻布島まふしま。今日もおやつを持ってきたんだが、皿は人数分ありそうか?」


 まにが白い箱を差し出すと、あをいが身を乗り出してじっとその、甘い匂いのする箱を見つめる。キッチンに運ばれていく間も、箱を視線で追う。


「……青っぴさ、そんなにちしおのおやつが食べたいなら、オレの分もやろうか?」


「何も言っていない」


「いや、見てれば分かるから」


「せっかく美味しかったのに、いっぱいあげちゃったもんね」


「うん……。あれは、惜しかった……」


 キッチンに立つまにとみいをじいっと眺めるあをいに、はゆうが笑いをこらえきれず、顔を背けてくつくつと笑う。


「そんなに美味しいなら、やっぱりあげるわけにはいかないな」


「うん、そうだろうとも。あれは、僕が独り占めいいものではない。みんなに素晴らしさを広めなくては」


「そんなすげーやつと一緒にお菓子作ろうって提案したの、今さらだけど、ほんとによかったかなって思えてきたな――あ、後でみぃも誘うか」


「みいちゃんも来てくれるなら、きひも嬉しい」


「そうだね――」


 柔らかく微笑むあをいを見て、きひろがわずかに眉尻を下げた。

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