第23話 診断士の過去

「それで。なんで青っぴは未来診断士になろうと思ったんだ?」


 みいの家に向かう途中で、はゆうから尋ねられる。


「小学校や中学校の卒業のタイミングで、将来の夢を聞かれてね。アルバムに載せるからと」


「あー、オレもそんなことあったな。あ、オレがなんて書いたか分かったりするのか?」


「僕は君の趣味趣向も知らなければ、過去についても麻布島まふしまさんとの絡みのことしか聞いていない。つまりは、外れる可能性が高い」


「お、言ってみろ言ってみろ」


「小学校ではプロ野球選手、中学校では、世界一友だちが多いやつ、とかかな」


「すげー!ドンピシャだ!」


 はゆうの輝く目を見て、あをいが誇らしげな顔をする。


「手のタコを見る限り野球で間違いなさそうだとは思ったが、今日の部活はよかったのかい?」


「ああ。部活よりも大事なことがあるからな。それで、青っぴはなんて書いたんだ?」


 日が傾き、あをいの顔に影が差す。


「小学校のときは、ない、と正直に書いたら怒られたんだ。だから、理不尽に怒らない大人、と書いてやったよ」


「嫌な子どもだったんだな……」


「失礼な」


「それで、中学のときは?」


「当然初めは、ない、と書いた」


「おっ、ブレないな青っぴ。……あれ、でも今は未来診断士の資格を取ってるよな?」


「きひろに怒られたんだよ。また変なことを書くな、とね」


 あをいが眉尻を下げ、ため息をつく。


「あー、確かに、兄貴が変なこと書いて目立つのはちょっと嫌かもな。それで、どうしたんだ?」


「その頃から、今みたいな相談を受けることが度々あってね。結構、的を射ていると評判だったんだ」


「なるほど。それで資格を――いや、いつ取ったんだよ?将来の夢って、早くても二月くらいにしか書かないだろ?」


「試験が三月にあったからね。ひと月も勉強していない」


「すげーな!じゃあ未来診断士は、青っぴの天職なわけだ」


「さてね。僕も間違うことはあるし、まだまだ経験不足だ。……自分自身の夢も見つけられていないし」


 あをいの顔にかかる影がより一層、暗さを増していき、世界を闇が包み込んでいく。


「でもまあ、全員に夢があると思う方が変だよな。夢って、なくても生きていけるものだし」


 腕を頭の後ろで組み、茜色の空を見上げるはゆうに、あをいが目を瞬かせる。


「……確かに、そのとおりだ」


「そうだろ?ま、青っぴもなんだかんだ、苦労してるんだな」


 軽い調子で言うはゆうに、あをいが微笑む。


「僕も悩み多き普通の男子高校生だからね」


 そんな話をしながらたどり着いたみいの家で、はゆうは躊躇いなく、インターホンを押す。が、しばらく待ってみても、反応はない。


「あいつ、留守かな?」


「いや。家にはいると思うけれど――」


「あ、門開いたわ」


 門に鍵がかかっていないのを確認した後で、玄関の前に人がいるのに気がつく。向こうはインターホンの音で、あをいたちを振り返って見ていた。


「あれ、青っぴじゃないか」


ちしおくん――」


「あをい、やっほー」


 その横から影がひょっこり顔を出す。


「と、きひろじゃないか。珍しい組み合わせだね?」


 きひろと、白い箱を手に下げたまにが扉の前に立っていた。

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