エピローグ:もう一つの帰省
信越大橋のゲートに到着した田中勝は、迫り来るゾンビの大群に怯え、自衛隊員に必死で訴えかけた。
「後ろから化け物が来てるんだ!早く中に入れろ!」
自衛隊員は田中が噛まれていないか確認しようとしたが、勝は焦りと恐怖に駆られ、そのチェックを無視して叫び続けた。
「良いから中に入れろよ!普段は俺らの税金でただ飯食らってるんだから、納税者のいう事を聞け!」
衛生兵が田中の言い草に呆れていると、斥候から生存者がいるとの知らせが入った。自衛隊はすぐに救出班の編成を開始し、それが終わるまでは勝にここでとどまる様に伝えたが、執拗にゲート内に入ることを求めた為。自衛隊員は渋々彼を中に入れ、医療テントで待機するように指示を出した。
「ここで待て。後で検査する」
だが、勝は医療テントでじっとしているつもりはなかった。悠介たちが生還すればタダじゃ済まない。特に直樹には何をされるか分からないだろう。
救出部隊が編成される中、「16式機動戦闘車を出せ!」との指示が出された騒ぎに乗じて、勝は停められていた乗って来たバイクに乗り込むと、バリケードエリアを離れた。
数十分後、田中勝は無事に実家に到着した。勝の母親が驚きと喜びの声を上げる。
「お父さん!勝が帰ってきたよ!」
興奮気味に家の中にいる父親に声をかけ、涙を浮かべた母親が勝を抱きしめた。
その夜、田中家では勝の生還を祝うささやかな宴会が開かれた。勝は得意気に長野からの脱出劇を語り、自分がいかにして生き延びたかを自慢した。甥っ子の蓮は勝の話を熱心に聞き、尊敬の眼差しを向けていた。
「あいつらの馬鹿さ加減と言ったらとんでもなくてさ~、俺がいなかったらみんな死んでたんだ!」
久しぶりに家族にも褒めたたえられ、勝は有頂天になっていた。宴会後、上機嫌で風呂に入ることにした。
体を洗いながら、勝はふと右腕に黒ずんだ歯形を見つけた。
「いてっ…なんだこれ?」
信越大橋の手前で車を降りた際、迫り来るゾンビを振りほどいた時に感じた痛みを思い出した。あの時はただの切り傷だと思っていたが、今見るとその傷は黒く変色し、異常な状態になっていた。
「まぁ…大したことないだろ。直りが悪きゃ病院に行って犬に噛まれたって言おう」
勝は大して気にも留めず、コンビニで買った包帯を念入りに巻き、ベッドに入った。
翌朝、甥っ子の蓮が勝の部屋に飛び込んだ。
「叔父さん!遊ぼうよ!」
朝一番の元気な声をかけると、勝はベッドからすでに起きていた。背中を向けたまま立っている彼の右腕からは、大量の血が床に滴っていた。蓮が驚いて近づこうとしたその時、勝はゆっくりと振り返った。
「叔父さん…?」
その目には、生気がなく、顔は灰白色に変わり果てていた。
その日の昼頃、無人となった田中家の居間のTVでは朝のニュースが流れていた。
「本日早朝、上越市の民家で、この家の住民の田中菊次郎さん(73)が血を流して倒れているという通報があり、警察が駆けつけたところ、付近の田んぼで田中勝さん(43)がゾンビ化した状態で発見されました。警察の要請により、自衛隊が直ちにゾンビ化した個体を鎮静化しましたが、この家に住んでいた田中蓮ちゃん(6)が依然として行方不明となっています。警察は周辺地域を捜索中です。もし付近で見かけた際は絶対に近寄らないで最寄りの警察署に…」
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田中菊次郎(たなか きくじろう)
年齢: 73歳
職業: 退職後、年金生活
性格: 昔ながらの厳格な父親で、礼儀と規律を重んじる。厳しい一面もあるが、家族への愛情は深く、特に孫である蓮には甘い。体力の衰えを感じつつも、家族を守ろうという気持ちは変わらず強い。
田中房江(たなか 房江)
年齢: 74歳
職業: 専業主婦
性格: 温厚で優しく、家族思いの母親。家庭を第一に考え、家族全員を支える存在。家事が得意で、料理や掃除をしっかりこなし、家族が帰ってくるのをいつも待っている。息子たちの成功を心から願っている。
田中大(たなか ひろし)
年齢: 46歳
職業: 会社員(営業職)
性格: 社交的で、誰とでもすぐに打ち解ける性格。家族思いであり、特に父母には親孝行を大切にしている。仕事でも家庭でも責任感が強く、弟の勝とは対照的に落ち着いた性格。家族との絆を大事にし、何かあれば真っ先に動くタイプ。
田中美咲(たなか みさき)
年齢: 42歳
職業: パートタイムの事務員
性格: 明るく親しみやすい性格で、家庭的な一面が強い。家族や友人を大事にしており、誰にでも優しく接する。夫の大や息子の蓮を支えながら、家族をいつも笑顔にする存在。おせっかいなところもあるが、それが周りに安心感を与える。
田中蓮(たなか れん)
年齢: 6歳
職業: 小学生(1年生)
性格: 好奇心旺盛で、元気いっぱいの男の子。何にでも興味を持ち、田中家のムードメーカーとして家族を笑顔にしている。特に叔父の勝を尊敬しており、彼の話を熱心に聞くことが好き。まだ幼いため、時折無邪気な行動で家族を困らせることもあるが、その純粋さで周りに愛されている。
帰郷・オブ・ザ・デッド ぐおじあ @Guojiax3
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