第3話
太陽に照りつけられた水面がきらきらと眩しい。その傍らには生っ白い身体が三十ほど並んでいて、体育教師を中央に据えた白い輪をつくるプールサイドは前衛的なアートのようにも思える。
先生、ビート板持ってきました、と言った水泳部の女子だけがこんがりと焼けた肌をしていて、不意に彼女を目で追った。彼女の黒光りするお尻から水滴が垂れて、プールサイドに黒いシミを点々とつくったとき、私は隣にいるヒカリに向かって小さく口を開いた。
「このあいだのアレ、飛び降りるって思われてたんだって」
「えっ、誰が?」
「うちら」
うちら。
自分でそう言って、いいな、この言葉の響き、と思った。
「ああ、あの学年主任の先生怖いよね。急に大きな声出すもん。びっくりしたよ」と、ヒカリがのほほんと言う。
「いや、そっちじゃないよ。あの副担の先生のほう。さっきすれ違ったとき、きみたち飛び降りようとしたのかと思った、ってぼそっと言われた。そんなに病んでるように見えるのかあ、うちら」
「ああ……。苗字、なんだっけ? あじろ?」
「違うよ、神代」
「かじろ?」
「うん、そう。」
「なんて書くの」
「神様の神に、……ええっとねぇ、代わりって書く」
「神の使いなのね」
「いや違うと思う」
私が笑うと、ヒカリも続けて笑った。
でも、ほんとうに神がかってるよね、キャラが、と私が言うと、ヒカリは一瞬表情を曇らせたが、そうだねと返事をした。
私の意図は正しく伝わったのだろうか。
いつもは黒目と白目の境界線がはっきりとしているヒカリの瞳が、くすんでいるように見えた。
神代先生。
先週、担任の先生が呼びかけると、猫背気味にのっそりと教室へと入ってきた新任の先生だ。
友達とのお喋りに夢中だった私たちは、急に教室に現れた若い男に驚いたが、特に色気がつくことは無かった。
今年度の副担任としてお世話になります。そう言い放った彼の声はひどく小さく、陰気だった。背丈は高いのに姿勢が悪いから、シルエットが不格好だ。前髪が海苔のように乾いて垂れていて、目元がよく見えないせいで瞳の色がわからない。
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