魔王軍が攻めてくるのなら、魔王軍を歓迎すれば良いじゃない 〜ムソカ村観光地化計画〜
第二話 ムソカ村観光地化計画 〜都合良く歴史や伝統を修正・捏造して、魔族と仲良しである風に見せれば、あの蛮族を簡単に騙せるんじゃね?〜
第二話 ムソカ村観光地化計画 〜都合良く歴史や伝統を修正・捏造して、魔族と仲良しである風に見せれば、あの蛮族を簡単に騙せるんじゃね?〜
「……魔族の子の話、ですよね?」
真偽は不明だが、ムソカ村にはこのような言い伝えがある。
千年以上前——この村がムソカ村になる前に、とある男児が生まれた。その子は生まれながらにして強大な力を持っていたが、同時に魔族の如き悍ましい姿形をしていた。
その子を恐れた村人達は彼を親諸共殺し、大地に埋め——それが同じ姿形をした魔族の怒りに触れ、村の傍に魔界との境界ができた。
或いは、ムソカ村の元となった村が人間界と魔界の対立を生んだのかもしれないのだ。
「真偽はどうあれ、魔族がこの歴史を知っていたとしたら、仲良くなれる訳が無いであろう」
「否定はしませんが……村長、この話っておかしなところがありません?」
「おかしなところ?」
村長は首を傾げた。こちらの意図が分からない様子だ——だが、何ら難しいことでは無い。冷静に考えれば気付けることだ。
「仮に魔族がムソカ村——と言うよりはその前の村を魔族が恨んでいたら、この村なんてとっくに滅んでません? しかもこの村、周辺に魔物どころか魔族も全然現れないんですよ?」
「あ、確かに」
もし魔族がこちらを恨んでいたら、千年以上の歴史の中で確実に滅ぼされている。しかしながら、魔族はこの村を滅ぼすどころか姿を見せることさえ無い。
だから魔族はこの歴史のことを知らない、或いは興味を示していないと考えるのが妥当である。
……まあ、魔族なんて欲望の為に数多の命を殺し、仲間同士の殺し合いさえする蛮族だから、歴史なんて興味を示さないだろう——という印象もあるんだけど。
「連中はこっちの歴史を知らない、或いは興味が無いと見るのが妥当かと」
「ふむ……しかしながらメラビタよ、そうだとしても過去が無かったことになる訳では無い。魔族は衝動的な奴等だ、この歴史に触れた途端、こちらを殺す可能性もあろう」
「そ、それもそうですね……」
言われてみれば確かに、魔族を殺した歴史を知れば、「この同胞殺し!」みたいなことを叫んでこちらを殺す可能性がある。
——仲良くするのは難しいかな……? いやでも、上手く隠せば……隠す……歴史を隠すには——
「あ」
天啓が降りてきた。
隠したければ、騙せばいい。
隠したければ、でっちあげればいい。
「ん、どうした?」
こちらを訝しげに見る村長に、私は身を乗り出して言う。
「でっちあげましょう」
「……は? でっちあげる? 何を——」
「歴史を、伝統を——この村と魔族の関係性を!」
「……………………は?」
こちらの意図を読めない村長にぐいと更に近付き、ムソカ村の希望となる計画を高らかに宣言する。
「題して、『ムソカ村観光地化計画 〜都合良く歴史や伝統を修正・捏造して、魔族と仲良しである風に見せれば、あの蛮族を簡単に騙せるんじゃね?〜』、です!!!」
私の叫びに、叫喚に包まれた部屋が静まり返った。この場にいる誰しもがこちらをじっと見ている。
「む、ムソカ村観光地化計画……? 別に観光地にする必要性は無くないか……?」
怪訝そうな声で放たれた村長の言い分も分かる。仲良くするだけなら、別に観光地にする必要なんて無い。
正直パッと思いついただけで別に深く考えていなかったが、よくよく考えてみると観光地化による利点が無い訳でも無い。
「村長、よーく考えてみて下さい」
私の声に村長も、先程まで狂っていた村人達も黙って耳を傾けた。
「ただ仲良くなるだけじゃ無く、観光地として扱われれば、あの蛮族だって『楽しい場所が無くなるのは嫌だし、少しは丁重に扱ってやるか!』ってなると思いません? どうせ何しても死ぬ可能性はあるんです、だったら少しでも確率を下げるべきかと」
「そ、それもそうだな……それで、この村に観光に使えそうなものはあるか?」
「え」
観光と言っておきながら、そこに関しても考えていなかった。
確かに、ムソカ村で観光に使えそうなものはあるのだろうか……?
「……えー、と……」
取り敢えず考えてみる……が、特に何も思い付かない。この村の歴史と、昔から続く料理くらいである。
……いや、私がこれまでそういったものに興味関心を抱いていなかっただけで、実際は色々あるのかもしれない。
すぐ傍にいた農家の男性を見遣り、問い掛ける。
「な、何かこの村特有の農作物とかあります……?」
「いや、特に無いな」
次いで工芸職人の女性を見遣る。
「工芸品は——」
「ウチはどこにでもあるような首飾りや腕輪しか作ってないよ」
汗がじわりと出てくるのを感じつつ、また別の人を見て問い掛ける。
「料理とかお菓子は——」
「べアート、以上」
「肉や魚は——」
「豚と牛、魚はそもそもこの辺に川や海が無い」
「何か建物——」
「昔からずっと残っているのは墓くらいだね」
「…………」
無い。私の想像以上に何も無い。
どうやら私がこの村固有のものに興味関心が無かった訳では無く、そもそも興味関心を抱くきっかけが無かったようである。
というか、ムソカ村じゃ無かった頃も含めて千年以上も歴史があるのに、こうも何も無いものなのだろうか?
「あ、幾つかあるな」
と、村長が天井を見上げながら呟いた。
「何ですか!?」
全員の視線が村長に注がれた。
こちらの期待を受けた村長は、しかし言い出し辛そうに目を泳がせた。それから少し経ち、ようやく彼の口が開かれる。
「……魔族から村を守る為の祭具と、魔族を殺したり拷問したりする為の道具や武器」
「えぇいこうなったら魔族が来るまでに皆で色々捏造しましょうッ!」
そういう訳で、私達は魔族を騙す為の嘘を練り始めたのだった。
魔王軍が攻めてくるのなら、魔王軍を歓迎すれば良いじゃない 〜ムソカ村観光地化計画〜 粟沿曼珠 @ManjuAwazoi
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