92. 高級ヌガー
ニニンドが起きた時、ナガノから食事の招待のメモが届いており、どうしようかと思っていたら、リクイが眠そうな顔をしながら部屋にやって来た。
リクイもナガノから招待されているということで、ふたりで浴室に行き、汗を流してすっきりとした。
サララがナガノの部屋にいるはずだから、とにかく、まずは謝ろうとニニンドが言った。
「ぼく達、サララ姉さんに謝るようなことはしていないですよ。姉さんがもっと理解すべきです」
「でも、サララに心配をかけたのは事実だし。私がすぐに説明しないで、逃げようとしたのが悪いんだ」
「急いでいたから、仕方がないですよ」
「本当は、なんか恐ろしくなって、逃げてしまったところがある」
「サララ姉さんが怖いんですか」
まぁね、とニニンドが頷いた。
「珍しいですよね、そんなの。どうしてですか」
「どうしてなんだろう」
ニニンドは半分びくびくしながらも、それでもいそいそとナガノの部屋にやって来たのだが、そこに着くと、サララはすでに帰ってしまっていたことがわかった。
「どうして帰したの?」
「泊まっていくようにとお勧めしたのですが、お忙しいようで、すぐに帰っていかれました」
「今の季節は、特にキャラバンの仕事が忙しいんです」
とリクイが言った。
リクイは身体を揺らしながら、料理を覗いた。ナガノがおいしい猪肉を取り寄せて、きのこをたくさんいれたシチューを作ったのだという。
「うれしいなぁ。おいしそうです。ずうっと食べていなかったから、空腹なんです。ニニンドも、な」
しかし、ニニンドのほうはうれしそうではない。
「猪肉ときまこのシチューは若さまの大好物でしたから」
「昔はあれしか、なかったから」
ニニンドは機嫌が悪い。
「ナガノさま、サララ姉さんの様子はどうでしたか。怒っていましたか」
「どうでしょうかね」
ナガノが黙ると、「どうなの?」とニニンドが追いかけるように訊いた。
「泊まらないでさっさと帰ってしまったくらいですから怒っていましたけれど、でも、お土産を置いていきましたから、それほどでもないでしょう」
ナガノが小さな包装されたお菓子を見せた。リクイがそれを手に取って、「ヌガーだ」と言った。
「これ、ピスタチオのヌガーだろ」
ニニンドがうれしそうな声を出した。
「ニニンドは、食べたことないのかい」
「こういう高級なのはない」
「おありですよ。もっと高級なのもありました。甘すぎて嫌いだと言われたではありませんか」
とナガノが口をはさんだ。
「これは違う」
「違いませんよ。もっと高級なのをご用意したことがありますよ」
「ナガノは頑固だなぁ。これは異次元のおいしさなんだよ」
「頑固なのはどちらでございますか」
「ふたりとも、頑固ですよ」
とリクイが言った。
ニニンドが包装紙をあけて食べようとした。
「若さま、だめでございますよ。お食事を召し上がった後でなくては」
「私は子供か」
「幼子でございます」
「司令官だぞ」
とニニンドが睨んだので、リクイがふふっと笑った。
「リクイがついに笑った」
とニニンドが微笑んだ。
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