4. ジョット兄さん
「よく見ると、弟のほうも悪くないね」
サララはテーブルの向かい側に座り、頬杖をつきながらリクイを見つめた。
「あんたはまだ子供でチビだけれど、もっと背が伸びて、体格もよくなったら、ジェッタみたいに頼もしくなれるよ。もっと食べなさい」
「もう子供じゃないですよ。サララ姉さんと、そんなに違いません」
「女子の十五歳と男子の十三歳の差は、数字ではたったの二だけど、一時と二時の違いではなくて、一時と十二時くらいの違いがあるんだ」
サララがわけのわからない例えを持ち出した。
「わたしの年齢ではね、もう嫁に行っても早すぎないんだから。最近、すごい金持ちに申し込まれた友達がいる。相手ときたら、菓子の食べ過ぎで、歯がぼろぼろの中年でさ、それが結婚するからって総金歯にしたんだけど、その金歯がきらきら輝いてこれがすごいのなんのって、拝みに来る人がいるんだって」
サララが、がははと笑った。
「ねっ、意味、わかった?」
サララがリクイの顔を覗き込んだ。どうもわかっていないようだ。
「東の国にあるお寺の仏像は、きらきらの金色なんだってよ。つまり、金歯を仏像かと思って、拝みに来るという話。わかった?」
「ああ、はい」
サララがじろじろ見つめるから、リクイは緊張して、なかなかうまく食べられない。
「でも、あんた達兄弟、全然似ていない。同じ親だよね」
リクイは小さく頷いた。
「あんたを育てた爺さんとは、どういう関係?」
リクイはうんうんとあいまいに首を振って、肩をちょっと動かした。ぼく、よくわかりません。
「あんた達の母さんって、どんな人?きっときれいな人なんだろうな」
リクイは口に豆をいっぱいにいれたまま、首を横に振った。リクイは両親についても、何も知らない。リクイはジェットが本当の兄ではないことをさえ、別れの前の晩に聞かされたのだった。
「ぼく達は血がつながってはいないんだよ」
とジェットが突然、言ったのだ。
「血がつながっているって、何?どうしてそんなことを言うの?」
「言いたくはなかった。でも、おれは兵隊に行くんだからね。戦いで死ぬことだったあるから、本当のことを伝えておいたほうがいいと思ったんだ」
リクイは両親の顔も知らず、爺さまとの関係もよくわからない。でも、一緒に育ったジェットを兄さんだと思って、疑ったことなどなかった。
「兄さん、兄さんは一生、ぼくの兄さんだよね。本当の兄弟でないとか、そんなことはいわないで。死ぬとかも、言わないで」
「わかった。ぼく達は一生兄弟だから、生きてリクイのところに帰ってくるから、泣かないでくれ。もう二度と言わないから、このことは誰にも言ってはならないよ」
兄はそう言い残して去った。
リクイはサララをちらちら見ながら、話さなくてすむように、大きなパンの塊を急いで口に放り込んだ。
「やっぱり空腹だったのね。お代わりがあるから、たっぷり食べなさい。食べている間は、わたしが話をするから」
帽子を脱いだリクイの黒髪はさらさらとして、頭を動かすたびにそろって揺れ、目がくるくるとしてミーアキャットのようだ。
サララはこれまで、いつも兄の陰にいるシャイな弟のことをそれほど気にとめたことがなかったけれど、こうやって会ってみると、なんて可愛くて、礼儀正しくて、素直なよい子なのだろう。ジェッタも、こういう性格ならよかったのに。
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