3. 沙漠の家
普通は砂漠と書くけれど、正しくは沙漠と書くべきで、いわゆる水が少ない荒地はすべて沙漠である。沙漠には大きく分けて、瓦礫沙漠、岩沙漠、そして砂の沙漠がある。見渡す限り砂というのが「砂漠」なのだが、沙漠というと砂のイメージが強いけれど、沙漠の中でも、大半をしめているのが瓦礫沙漠なのである。
リクイは「アカイ村」というところに住んでいるが、リクイの家がある場所は瓦礫沙漠で、地面は固く、所々に低木が茂っている。入口に立つと左手には肌色の眠っているような岩山がそびえている。しかし、右手には砂が広がっていて、丸い砂丘が見え、細かい砂が家に侵入してくる。
アカイ村の外れにあるこの家の裏には、小さな井戸がある。爺さまがここに住むことに決めたのは、ここに貴重な水源を発見したからだったと聞いたことがある。そこになぜかナツメヤシの木が一本生えていたので、水があることがわかったのだ。
博識の爺さまはその近くに、さらにナツメヤシを二本植えた。その木々は見事に茂り、毎年、何千という実をつけた。その実が地面に落ちないように、木に登って網をかけるのがジェットの仕事だった。リクイは高い所は苦手なので、下で梯子を抑えていた。ナツメヤシは一家の最大の収入源になっていたのだが、爺さまが死んだら、とたんに実をつけなくなった。ナツメヤシは爺さまの魂を追っていったのだろうか、とジェットと話したことがある。
「柵の中ではカリカリが寝ているから、その様子も見てきて。長い旅だったから、疲れているの。あんまり疲れているようだったら、起こして歩かせるのはかわいそうだから、今夜はここに泊まっていこうかな」
サララがそう言った時、リクイは思わずうれしさで頬が緩み、やったーと天井まで飛び上がりたかった。これで、明朝までは、さみしくない。
「ぜひそうしてください。兄さんの寝台もありますから」
サララはキャラバン隊の案内人をしている。船で言えば、水先案内人みたいな仕事である。東から西に向かうキャラバン隊もいれば、西から東に向かうキャラバン隊もいる。サララはキャラバンサライ(キャラバン隊の宿泊宿)から次のキャラバンサライまで、時には町のバザールまで、カリカリに乗って、道案内案内するのだ。
砂漠は風の向きで常に形が変わるので、星がない昼間に、砂の上を進むのは難しい。地理の問題だけではなく、寒暖の差が激しいし、水の問題、突然の砂嵐、それから盗賊が襲ってくることもある。
サララの亡くなった父親がこの案内人の仕事をしていたのだが、サララ自身は女子の自分に、この仕事ができるはずがないと思っていた。しかし、人手が足りない時に応援に駆り出されたのがきっかけで、顧客がついた。
サララが道なき砂漠の地理に詳しいことや、仕事の丁寧さが買われて、サララを指名するキャラバン隊がだんだんと増えた。サララは言葉が乱暴だし、ふるまいも男子のようなので、女子として扱われることがなかった。というか、女子だと知らない客もいる。
サララはいくつかの外国語を習得したし、いつもベルトに太い脇差を差していて、武術にも長けていた。ラクダの上でみごとな戦いぶりをして、盗賊を追い返したという噂はリクイも聞いたことがある。リクイはその姿を想像する。勇敢なサララの姿が、本の中の英雄と重なる。
外に出ると、寒気が頬に気持ちよかった。上を見ると、水しぶきのような星が、どこまでも広い夜空に散らばっていた。
「星がいっぱいだねぇ」
リクイが大きな空を仰いだ。
「さっきからですよ」
スマンが首を伸ばして、頭を振った。
「坊ちゃんは子供ですか。さっきは死にそうだと言っていたのに、今は有頂天じゃないですか」
「サララ姉さんが来てくれたんだ」
「知っていますよ」
「それで、今夜は、スマンはカリカリと一緒になりますが、よろしく頼みます」
「わかりましたよ、坊ちゃん」
元気になったようで、何よりです。今夜を越せないなんて言うから心配していたんですよ、とスマンは鼻から大量の白い息を吐いた。
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