僕の知らない君
「君が元研究者だったいうのはまだ分かる」
光はグッと手に力を込め、顔を顰めて言う
「……ただ…ループだとか恋人だとか、それを盲目に信じることは出来ない」
「証拠を出せって?」
Adamはポッケから取り出した手帳を開いてペラペラとページをめくると、ふと言った
「今日、何月何日だ?」
「は………えっと、3月………くらい…?」
「残念5月14日、被検体期間が長すぎたな。冬はとっくに終わってる。今年の5月は───これといった出来事は無いな。………でも来月、アメリカの大統領が暗殺される。それも9歳の男の子によってな」
いつの間にか光の視線は手帳に釘付けになっていた。突然衝撃的な事を言われて体が固まり、平然を装いきれないまま言う
「…………そんなの起こる訳ない…」
「まぁ、これは待たなきゃ証明出来ないけどな。あと、光の彼氏だった証拠も必要か?」
「…………いや、それは別にいい。万が一その“光“が本当に僕と同一人物だとしても、君の言う“光“と僕はきっと根本から違う。僕は君への恋愛感情がまるでない。……だから、いい」
「……………」
後ろから不穏な気配がして振り向くとAdamに両肩を掴まれて床に押し倒される。頭と背中に痛みが走った。
「いっ…………んっ!?」
口の中にAdamの長い指が入ってくる。目の前まで迫ったAdamの顔は怖いくらいに真剣で、僕が涙を浮かべても顔色ひとつ変えやしない。
あまりにも静かな室内に僕の吐息と唾液が絡まる音が響くのが、どうにも恥ずかしくてAdamの腕を必死に掴んだ。
「よかった」と呟いたのが聞こえるとAdamの指は僕の口からゆっくりと出ていった。まだふわふわとした意識の中、Adamはそそくさと何かの準備を始める。
「“それ“処理し終わったらまた出発するぞ」
「それってな……」
Adamが指をさす。僕に向けて指をさす。少し下方向に向かっている指の先を辿ると僕の僕が大きくなっているのが見えた。顔に熱が集まり、僕は急激に自我を取り戻して言った。
「っな………わかったから、!わかったから……!出てっ……いや、トイレの場所を教え」
「そこ出て右」
「っ!……………くそっ!」
光がバタバタとトイレに駆け込み、鍵までしっかりかけたのを確認したAdamは広い部屋にぽつんと取り残された。棚の中にある錠剤を手に取って、プチプチと手に取り出す。一気に飲み込み、座り込んで言った。
「大丈夫、切り離せる。光はこれから……俺のいない世界で笑うんだ」
君の彼方 高間 哀和 @takamaaa
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