それが真実
天井が高くて、無駄に広いロビーを進んで僕達はエレベーターに乗った。
「ここ、もしかしてマンションか?」
「そ、俺の家」
「…君に家なんてあったのか」
「そりゃな」
僕はそれ以上話を広げず、「あっそ」とだけ呟いて壁を眺める。しばらくしてエレベーターは止まった。見上げてみると壁には35と書かれている。高層階、というやつだ。どうやらこいつは中々の金持ちらしい。
廊下の1番奥の部屋、Adamがガチャッと扉を開け、僕も中に入る。周りを見てみると物が少なく、夜逃げ前のような部屋だと思った。それに───
「コンクリに覆われた研究所とは全く違うだろ?ここ。でも心配しなくていい、このガラスは外から見えにくいようになってるんだ。」
後ろから声が聞こえた。僕は向き直って言う
「……やっぱり、君はあの施設の研究者か。道理で僕の事をよく知ってる訳だ。」
「………“元“研究者、な。……俺は1度研究所を裏切った、彼奴らから逃げてるのは俺も同じだ。…それに、光の事はただ俺が知ってただけだ、研究とは関係ねぇ。」
「僕と君が恋人だって事か?」
「それは忘れてくれ、裏切り者の戯言だ」
「君が言ったんだろ、恋人の名前を知ってたら悪いかって。あれはどういう意味だ、本気で恋人だと思っているのか、比喩なのか、比喩だとしたら僕と君は一体どんな関係が…っ!」
Adamに両肩を捕まれ、僕は壁に叩きつけられた。背中に痛みが走る。すぐに目の前のAdamに目をやったが髪で隠れて表情が読めない。
「…光、お前が今どういう立場にいるか分かってんのか……?」
「俺は高架下で大勢のΩを見てきた。このデータを持ってけば、成果主義の研究所の奴らは俺を受け入れるだろうな。そしたら俺はお前らの事を密告する。そうすればお前はまた虐待親子の元に逆戻り──」
僕はAdamを押しのけた。そこには傷ついて泣きそうな子供の顔をした大人がいた。僕はそれを見てゆっくり話し始める
「君がそうしないのは、知ってる。そしてその選択がどうしようもなく君を苦しめている事も、知っている。……evesの生活基盤を整えてくれた君には感謝してるんだ。…僕に出来る事はあったら何でも言ってくれ、もう僕は君の協力者だ。」
「………はっ、残念ながら俺はそんな良い奴じゃねぇよ。ずっと自分本位で、何度も光を見殺しにした。evesだって、本当は助ける気なんてなかった。」
──予感はしてた。次に起こることを断定したような言動、僕ですら知らないeveの性質、なにより、研究所を裏切り、脱走まで行った事実。
でも、それがあまりに非現実的で、その可能性を僕は信じようとしていなかった。
Adamは顔を背けて言う
「俺は、この世界ループしてる」
「そして、お前の元恋人だ」
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