光はここに
「…お前はそう言うよな、そういう奴だった。いっつも自分を蔑ろにして、そうすれば周りを傷付けずに守れるって思ってる。」
Adamが手を離し、自由になった僕の手にじわじわと血が巡っていく。
「いいぜ、俺がevesをまとめるリーダーになってやる。その代わり、お前の計画はここで中止だ。自分だけが被害を被って大勢を助けるなんてクソみたいな美談、俺が絶対に実現させない。」
……僕はAdamに“計画“の話はした事がない。こいつの勝手な妄想だ、分かってる。でもこいつの瞳があまりにも真っ直ぐで、暗がりで生きてきた僕には眩しすぎて、どうしても苛立ちを抑えられなかった
「……Adam…君は……何なんだ、君が!僕の、何を知ってるんだ!!計画はやめない、僕が僕の為にするんだ、君に口出しされる言われはない」
「お前はいつもそうだ、自己犠牲精神が無駄に強いくせに誰よりも生きたいと願ってる!」
「僕はそんなこと思ってない!」
「じゃあ何のためにここに居るんだよ!ここにいる奴らはもう自分で生活していける!本当に贖罪が目的なら今すぐにでも研究所に行けばいいじゃねぇか!!分かってんだろ?俺が居ればあいつらを安全な場所に移動させるくらい出来る事、それなのに光がここに縋ってんのは何でだよ…………必要とされたいんだろ……頼むから、生きたいって願ってくれよ、それだけでも、俺は……」
────駄目だ、痛い。……捨てたはずの心が、治ったはずの古傷が、とても、痛む
「…ほんとに……何なんだ…君は、全部見透かしたような顔で僕の心をこじ開けて、僕らが惨めにもがき苦しむのがそんなに面白いか」
「はっ…光の苦しむ姿なんて面白いもんかよ」
「………君、名前…なんで」
「…恋人の名前知ってちゃ悪いかよ」
Adamは「はぁ…」とため息をついた後、僕が落とした銃を拾い上げて言う
「ここだとevesの目がある、場所を移してから話そう」
──────────────────────
Adamに導かれ、僕は街中まで出てきた。こいつにとっては、きっと、何気ない日常なのだろう。だが僕がここまで出てくるのは本当に久しぶりで、全てが新鮮に、そして敵に見えてしまう。
僕がずっと下を向いているのでAdamが手を引いてくれる。その手は先程とは比べ物にならないほど優しく、訳の分からない嫌悪感を感じる。そんな中、Adamがやけに背の高いビルの前で止まる。そして振り向かずに手を離す
「逃げてもいい」
「は?」
思わず聞き返したが、返って来たのは予想外の答えだった。
「今、光には2つの選択肢がある」
「1つはここから高架下に戻ること、あの群衆の中を1人で戻ってもらう。もう俺は光の計画に反対しないし、疑問には全て答える。ただその場合、俺はリーダーとしてevesに研究所への突撃を命じる。
──2つ目はこのまま俺に着いてきてevesを裏切ること。もう光の思い描いた方法でevesを救うことは出来なくなる。それに、しばらくあの高架下には戻れない。…光はどうしたい?」
「……選ばせる気ないだろ、それ」
こいつは、evesを見殺しにして僕だけ利益を得るか、僕の全てを投げ売ってAdamの言いなりになるか、どちらか選べと…そう言っているのだ。
「…脅迫じゃないか、そんなの。evesの味方のような事を言っておきながら、君の本性はそれか」
「それで、どうするんだ?」
「着いていくよ、Adamに。君が何をしようとしているのかは知らないけと、それでevesの皆が救われるなら何でもする。元々君を受け入れたのは僕だ。自分のケツは自分で拭く」
「……お前、口悪いな」
「悪いか」
「…ふはっ……全然結構。それじゃ着いてこい」
そう言ってAdamは目の前にあるガラス張りのビルへ入っていった。僕は警戒しつつAdamに着いていく。
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