信頼の代償
Adamが居なくなってから約2週間が経った。朝も夜も起きているおかげで正式な日数は分からない。
これだけ日が空くと流石にAdamへの不信感は募ってくる。Adamがアイツらの仲間で、僕達を売ろうとしてる可能性だって低くない。
心のどこかでAdamを待っていたい自分が居たが、それを優先して集落のevesを危険に晒す程僕は馬鹿じゃない。この高架下の安全が脅かされている今、どこか別な場所に身を潜めるのが皆の為だ。
「……そろそろ潮時かもな」
光は壁沿いにある台に乗ってevesを見渡す。
「皆、聞いてくれ。evesの今後に関わる、僕達が生きる為の話だ。」
evesはやはり各々好きな事をしていて、誰も光の方を向いていない
「まず、この場所を放棄する」
その瞬間、evesの視線が一気に光に注がれる。そして次々に「なんでだよ!」「やっと見つけた安全地帯を……手放すの…?」と不平不満の言葉を浴びせられた。そんな中、背が高いeveが言った。「Adamはどうしたんだ、あいつが居れば多少危険があっても何とかしてくれるだろ?」
それに同調したevesがまた声を張り上げ始めた。光は胸に針を刺される気持ちになった。Adamは確かに、皆にとって心強い存在だった。だが帰ってこない、きっともうずっと、僕が深追いしたせいで。
僕は熱くなった手をグッと握ってevesを真っ直ぐ見据える。するとevesが少しだけザワついた
「まさに、そのAdamの事で話があるんだ。あいつは僕らevesを」
「evesをどうするって?」
──
聞き慣れた声に僕は力が抜ける。ゆっくりと声の方を向くとAdamが居た。半分笑ってはいるものの、明らかに不機嫌なのが分かる。
「え………」
僕がどうにか言い訳を考えようとしているとAdamも台に乗ってきた。流石に狭くてよろけそうになったがAdamに肩を支えられる
「この場所の放棄は無しだ!何があろうと、俺はお前らを救ってみせる。これからは俺がリーダーだ、物資も知識も、全てお前らにくれてやる。俺が信用出来ないなら、それで俺を撃て」
鈍い音を立てて地面に落ちたのは拳銃だった。evesの前にあるそれは注目と恐怖を浴びる。皆が怯んで誰も動こうとしない中、あるeveが台から降り、その拳銃を手に取った。そしてAdamに突きつけて言う
「…僕は君を信用しない、きっと皆も信用していない。……リーダーになるとか言うのは、本気なのか」
「……あぁ、本気だ」
「ならこの銃は僕が預かる。1発分だけ残して、他の弾はevesに分散させて保管させよう。」
拳銃を下ろした光はevesの方へ向き直る
「…皆!この男は僕達が求める全てを持っている、今頼るべきなのは皆も分かっているだろう。だが、僕はAdamへの警戒を怠らない…だから、evesは彼を大いに信頼していい!僕はいつでも引き金を引ける!!今日からAdamがここのリーダーだ!」
言い終えると高架下は静寂に包まれたが、しばらくしてからポツポツと拍手の音が聞こえてくる。まだ思うところはあるようだが、少数でも賛同してくれる人が居て良かった。
ふとAdamが柱の裏に掃けるのが見えたので、僕もそれについて行く。僕達の体が柱に隠れてevesから見えなくなった時、Adamが僕の腕をグッと掴んできた。その衝撃で持っていた銃を落としてしまう。「いたっ……」手を振りほどこうとしたが、Adamの手はほとんど動かない。
「evesは指導者を必要としてる、でも連れ出したお前はいつになってもその立場に着こうとしない。……いや、お前はお前のエゴの為リーダーになりたくないだけだ。」
「…………!!」
「そんなやり方じゃいつか仲間にまで恨まれる。…俺はお前を救いたい、だからこれも俺のエゴだよ。その銃で撃ってくれても構わない……死ぬ気はさらさら無いけどな。」
「僕…は、君を信用しない、きっと…一生。その分、君はここに居るevesの信頼を買うんだ。僕は恨まれるくらいでちょうどいい、ご心配、感謝するよ」
僕の手を握るAdamの手に力が入る。
「……そうだな」
Adamは僕の手を胸の高さまで持っていき、辛そうにそう言った
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