面倒な火曜日

月兎アリス(読み専なりかけ)

面倒な火曜日

 私の名前は小清水こしみずリン。

 先日入学したばかりの中学一年生だ。

 でも、人が苦手。というか、怖いんだ……。


 だから学校も嫌い、勉強はもっと嫌い。

 それで、授業数も多いし一週間の初めの火曜日が嫌い!



 いつも、挨拶することなく学校に行く。

 家族とは仲が良くなくて、ギクシャクしている。友達を作れない私なんか別によくて、愛想のいい妹の方が親は好きだから。

 今さら悔しいと思うこともなく……。


 着慣れない制服。見慣れない通学路。挑発するように舞い散る桜の花びら。

 重い足取りで学校に向かう。

 同じ制服を着た人たちとすれ違うのも怖くて、俯き加減で歩く。


「あの子見たことない。誰?」

「あれじゃない? 第一小学校の。五年のとき新しいクラスになって不登校になった人。名前は知らん!」


 うっ……私の人間嫌い伝説が……。

 確かにクラス替えで不登校になったことがあるのは事実だけど……!


 怖くて、駆け足で「ある教室」に駆け込んだ。


 * * *


 そこは、ホームルーム教室ではなく、空き教室。

 誰も来ないから、私はここが好きだった。


 でも……。


「白蛇……?」


 壊れた机の脚に巻き付いていたのは、白蛇だった。

 え、こ、怖……!


「お客?」


 し……白蛇が喋った……!

 何だろう、ゾワーっとする声……!!

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……!!!


「怖いっ……!」

「怖がる必要はない。……名前は?」

「り、リン……」


 名前を言うのも数年ぶりだ。いっときは自分の名前を忘れたこともある。今でも名前など個人の区別にしか使っていないし、覚えられない。


「リン、か……」


 低くて何ともいえない声だった。


「それがしは、生身の魂を持たぬ者……すさんだ魂を喰い吸収する者」

「???」


 何を言っているんだろう。生身の魂を持たない? すさんだ魂を喰い吸収する? どう言うこと?


「要は幽霊のような者。あと一人吸収すれば、実体のみを残して消える。最後に吸収した魂の持ち主が、その実体を継ぐ」


 ……?

 幽霊のような存在であることは理解した。でも、あと一人吸収すれば、実体のみを残して消える? 最後に吸収した魂の持ち主が、その実体を継ぐ?


「最後にそれがしに吸収された魂は、それがしの体に宿る。そして……言わば、白蛇、ヤマカガシという毒蛇になる」

「ええ……」


 でも、さっき……「すさんだ魂を喰い吸収する」って言ってたよね?

 もしかして、私の魂って……すさんでいるんじゃ……。


「さあ、こちらにおいで。苦しい人間世界から解放する。しかし、もまた苦しい生き物じゃ。……安心せい、安らぎの主人を見つければ幸せだ」


 ……この世界から解放されるなら。

 何をしてでも。


 私は、白蛇に近づいた──。




 二十年後、天下分け目の戦いに参加することさえ知らず。

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