エピローグ 今からほんのちょっと先の話
チリリリリリリリリ
枕元の目覚まし時計の音で目を覚ましすと同時に。
「双葉ちゃん、朝ご飯できたよ」
リビングの方から琴音お義姉ちゃんの声が聞こえてくる。それと同時に、微かにベーコンとバターの香ばしい香りが漂ってくる。
「はーい」
そう返事をしていつも通りパジャマ姿のままパタパタとリビングに向かうと、キッチンには琴音お義姉ちゃんと、わたしの恋人のひかりちゃんがいつものように姉妹揃ってエプロン姿で並んでいた。
わたしとひかりちゃんが付き合い始めてから2年後。わたしと、1年浪人したひかりちゃんは同じ大学に進学することになって、どうせ互いの実家から通えずに部屋を借りて住むなら、ということで同棲することになった。そしてその話を聞きつけた、わたし達よりも1年先に進学していたお姉ちゃん——琴音ちゃんも大学が近かったことから、今では恋人のお義姉ちゃん、として3LDKに同居することになった。
わたしとお姉ちゃんが同じ家に住む。そのことがわたし達の離婚した両親にバレた時は大変だった。けれど結局ひかりちゃん、それもわたしの恋人も一緒にいる、ということで、またお父さん達は時間が経ってわたし達が大人になったこともあってか、最終的にはわたし達の再びの同居を許してくれた。
それ以来、わたし・ひかりちゃん・琴音お義姉ちゃんは本当の家族みたいに、間違いなどは犯さずに楽しくやれている――とわたしは思ってる。
「いっつも二人に朝食を作ってもらっちゃってごめんね~」
「そんな。双葉ちゃんは最年少なんだし、無理しなくていいのよ」
義姉と義妹という立場に(一応)なってもわたしを甘やかすお義姉ちゃんにひかりちゃんは
「お姉さま、甘やかしすぎちゃダメです。これからは家事をローテーション制にして、双葉ももっと働くべきです」
と注意してくるけれど、さりげなく一口大に切り分けたベーコンエッグを刺したフォークをわたしに差し出してきて食べさせてくれるので、わたしは遠慮なくそれをぱくっと食べてしまう。わたしの恋人もわたしに対して大概甘いから、この状況はわたしが強く言わないと早々変わらないだろうな……なんて思う。
そうそう、付き合い始めてからひかりちゃんのわたしの呼び方も変わった。出会った時の印象が強いからか長いことひかりちゃんはわたしのことを『東さん』と苗字で、しかもさん付けで呼んでいたけれど、長らくの懐柔作戦の上、ようやくわたしのことを下の名前で、しかも呼び捨てで呼んでくれるようになったんだ。口調は相変わらずのですます調だけれど、それはひかりちゃんのキャラクターだと受け取ることにしている。
「そんなことより、ひかりちゃんと双葉ちゃんは大学の時間は大丈夫? 今日は一限目がある日でしょ」
お義姉ちゃんにそう言われてわたしが時計を見ると、一限目の開始時刻まであと30分を切っていた。
「やばっ」
「双葉ちゃんは食べながらでいいから、わたしが寝ぐせ直しておくわね」
「そんなの羨ま……じゃない、双葉の栗色の綺麗な髪は恋人であるわ・た・し・が! 責任をもって管理するから大丈夫ですよ」
「ひかりちゃんは双葉ちゃんと同じ時間に出なくちゃいけないから自分の準備をした方がいいのではないかしら」
なんか人の髪を弄りながら後ろでバチバチやり始めた……。ひかりちゃん、最初の頃よりだいぶお義姉ちゃんに強く言うようになったなぁ。まあ二人の間にもわたしが知らない3年間の積み重ねが確かにあって、二人はもうすっかり義姉妹になってるんだろう。そう思うと大人げなくそんな二人に嫉妬していた高校時代とは違って、ちょっと微笑ましい気持ちすら生まれてくる。けれど。
「あー、もうっ! 人の髪で遊ばないで! 寝ぐせなんかそのまんまでいいから」
「「それはダメ!」」
面倒くさくなったわたしに
恋人がいて、お姉ちゃんがいて、わたしがいる。そんなわたし達の間に走る矢印はそれぞれ違って、でもそんな3人で仲良く暮らせているこの時間が、人生で一番楽しいと、わたしは胸を張って言える。これこそがきっと、わたしがずっとなりたかった家族なんだろうな、って、思う。お義姉ちゃんとひかりちゃんがどう思っているかは、よくわからないけれど。
そしてそんな『今』があるのは高校二年生の時、悩み、間違え続けながらも最後には自分の気持ちに正直になって進みたい方向を決めたから。そんな2年前の自分の決断を、わたしは誇りに思う。
<義妹に妹の座を寝取られた妹ちゃんが、今度はお姉ちゃんの彼女さんを目指すようです! 完>
義妹に妹の座を寝取られた妹ちゃんが、今度はお姉ちゃんの彼女さんを目指すようです! 畔柳小凪 @shirayuki2022
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