第55話

「うーん、強いて言うなら……」

「強いてじゃなくて、全部教えて」

「えぇ……だって、矢部はね、前にも言ったかもだけど、わたしのことがすきだったんじゃなくて、やることやりたくて彼女が欲しかっただけだから、デートらしいデートなんてほとんどしなかったんだよ」

「でもまったくなかったわけじゃないんだろ」

「まぁ、そうね。だから、えっと……向こうの友達も一緒にカラオケとかゲーセンとか行ったのと、あっちの家と、あとはイルミネーション見に行ったくらいかな」

「なんだかんだで行ってるじゃん。しかも家とか。どうして上書きできないような場所にまで行くの」

「そんなこと言われても、そのときは断る理由もなかったし……あ、ほら、ちゃんと貞操は守ったからいいでしょ」

「……おれのため?」



なるから聞いたその言葉に一瞬ムッとしたが、わたしをからかっているようすは見られなかったので、本気でそんなかわいいことを言ってくれているみたいだ。



「そういう設定にしておいていいよ」

「はぁ? なにそれ」

「どのみち、今までわたしにキスしたことあるの、なるだけなんだもん」

「……へえ、そうなんだ。でも、おれ以外の男を彼氏にしたっていう貸しがあるってことは理解しておいてよね」

「友達との間にしこりは残したくないし気にはしないけど、そんなこと言うなら自分だってわたし以外のひとを彼女にしたくせに」



それに、なんでわたしが矢部と付き合うことになったのか、理由を理解しているはずのなるが、わたしにそんなこと言える立場じゃないことくらい、わかってるだろうに。

いや、もしかすると、わたしではなく、自分に対しての憤りをわたしにぶつけてるって感じなのかな。どちらにしても、損をしているのはわたしな気がするけど。

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雨上がりの夜桜を。 @matcha_plum

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