第54話

「へーえ。おれに会えない寂しさを埋めるために、ねぇ……」



あーあ。

やっちゃった。

でも、なんとなく機嫌が直ってるみたいだし、ここは折れてあげよう。



「いいよ」

「え?」



突然の肯定と、「どこ行く?」なんてなるが言い出すから、わたしは焦る。



「え、今から?」

「せっかく一緒にいるのに、何もしない方がもったいないでしょ」


それはたしかにそう。


「でも、行きたいところなんて急に思いつかないよ」

「あの矢部とかいう男と出掛けたりしなかったの?」



……それって。

過去の男と行ったところに、わざわざ出向くってことだよね。



「むしろ、なるはそれでいいの?」

「昔の男を気にして、可動域が狭くなる方が無理。おれとの思い出で上書きすれば、それでいい」



ある意味独占欲が強くて、その考えに感心しました。

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