元女友達が嫁になったらめちゃくちゃかわいく見えてしまう話

山本泰雅

嫁になった女友達にオンナを感じる……

高槻たかつき。今日、飲みに行こうぜ!!」




 金曜日の午後六時過ぎ。同僚の盛山もりやまが居酒屋へ行こうと誘ってきた。以前の僕なら、盛山と終電ギリギリまで飲んだりしていたが──




「わりぃ。待ってる人がいるんだ」




 僕は左手を上げる。




「なんだよ、お前〜。オレより嫁さんの方がいいのかぁ。独身仲間だったくせによ〜」




 文句をぶつける盛山だけど、声はずっと明るい。僕が結婚すると言った時には喜んでくれ、祝いと評して焼き肉をおごってくれた。同僚だけど、僕にとったら会社でできた親友である。




「うらやましいぜ。帰ったら、出迎えてくれる人がいるって。毎朝、起こしてくれるんだろ? オレはスマホの目覚ましなのに」


「盛山にも素敵な人が現れるよ」


「アァ゛、妻帯者の余裕か〜! このやろう」


「痛、痛いからっ! チョークスリーパーかけるなー!」




 和気あいあい? なやり取りをした後、僕たちはそれぞれ家路へとついた。



  § § §



 自宅の玄関を開けて、「ただいま」と告げる。数秒後、廊下の先にあるリビングから足音が響き、ひとりの若い女性が近づいてくる。




 僕のところまで来ると、




「おかえり〜。ジョージくん」


「ただいま。杏奈あんな……ちゃん」


「もうっ。結婚したんだから、呼び捨てでいいじゃんっ♪」




 ビシバシと僕の背中を叩く彼女。今日は暴力を振るわれることが多いな。




「ウ~ン、下の名前を呼べるようになっただけマシか。そんなところがかわいいんだけど」




 男にかわいいはないんじゃないか? そんなことを考える僕に、彼女──杏奈は顔を近づけてきた。




 明るく染めたミディアムボブに、エプロン越しでも膨らみがわかるぐらいの巨乳。無邪気に寄る美人に、僕はぼっと赤くなる。




「照れてんの〜。ほんと、ジョージくんはかわいい」


「……っ、かわいいとか言うな! ふんっ」




 杏奈から逃げるように僕はリビングに向かった。




「ジョージくん。まだ怒ってる?」


「…………」




 スーツのジャケットだけ脱いで、食卓に座った僕は杏奈が作った味噌汁をすする。手軽な出汁パックを使わずに、かつおぶしから取った風味豊かな味に心が和む。




 杏奈が不安そうに見つめるのを、僕は仏頂面を装って食事を続けていた。




 からかわれたから仕返し、という子どもっぽいことをするが、いつもやられるだけの僕ではない。




「ねぇ、ジョージくん」




 杏奈が僕の名前を呼ぶ。本名は貞治(さだはる)だけど、音読みして『ジョージ』とあだ名で呼ばれているのだ。




「ねえってばぁ……」




 今にも泣きそうな杏奈。少しいじめすぎたかも。




「……味噌汁おいしいよ。あ、杏奈」


「怒ってない?」


「最初から怒ってないよ。からかわれたのが嫌だっただけ。僕の方こそごめん……」


「それならいいんだ。エヘヘ、味噌汁おいしいって言ってくれた……♡」




 嬉しそうに微笑む杏奈に僕は、




「かわいい」と思ったままの言葉を言う。




 それを聞いた彼女は、先程の僕よりもりんごみたいになる。




「ジョージくんのあほっ」




 端正な顔をムッとさせた杏奈は凄くかわいかった。



  § § §



 僕たちが入籍したのは二ヶ月前。結婚を申し込んできたのは杏奈の方から。




『ジョージくん。アタシと結婚してくれない?』




 ファミレスで初めて聞いた時、僕は盛大に水を吹き出していた。疑問が浮かぶ中、その時の杏奈は──とあることで辛そうにしていたから。




 女友達だった彼女が流した涙を拭ってあげたいと思ったのだ。




 いいよ、と返した僕に杏奈は目を丸くして驚いていた。




 勢いのまま市役所で手続きし、そして僕たちは交際0日で結婚した。




                おわり




【筆者よりあなたへ】


 お読みいただき、ありがとうございます。本編が面白そうと感じたら──♥(応援)と☆☆☆(レビュー)の評価をお願いいたします。温かいコメントも。

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