第1話
――6年後
場所、カルカーン町のとある孤児院の庭にて。
一人の青髪の少年が難しい顔をしながら、目の前の藁で出来た人形と睨めっこしていた。
少年は手に持っている木刀をギュッと強く握り、上へと振り上げた。
「やあッ!」
ボフッと藁人形に直撃。が、それはびくともせずに木刀をただ受け止めた。
少年は黙って、元の構えに戻る。
「…やあッ!」
再び藁人形へと木刀を振り下ろす。だが、さっきと結果は変わらない。
人形に描かれた顔がまるで嘲笑ってるように見えてきて、少年は眉をピクピクと動かした。
ベシッベシッと今度はヤケクソ気味に人形を叩く。もはや何が目的なのか分からない状態だ。
「…あーもう!こんなの出来るわけない!!」
少年はそう悪態をつきその場に座り込んだ。
その少年を近くで見ていた赤髪の男性は深くため息をついた。
「ブラウ…諦めるのが早すぎるだろ」
「だって、出来ないもんは出来ないってば!本当に木刀で斬れるもんなの?」
ブラウと呼ばれた少年はそう言いながら男性の方へ振り返る。
男性はやれやれと言いたげにブラウから木刀を貰い、構えた。
「少し離れていろ。…よし、じゃあいくぞ」
男性は目を伏せ、息を吐きながら集中する。そして、目を開いたかと思えば素早い動きで剣を振りかざした。
そして数秒経ってから、人形が半分にパックリと割れ、その切れた片方が地面へと落ちた。
ブラウはあまりの凄さにその場に固まっていたが、すぐさま興奮気味にはしゃぎ出した。
「す、すごい!先生!!斬れた!」
そんな彼の反応に、先生と呼ばれた男性――ルーフスは半端呆れ気味の表情だった。
「斬れた!じゃないんだが…。お前もこのくらいは出来るようにならないとな」
「だって…先生みたいにあんな早く剣振れないよ…」
「それは修行あるのみだな。お前がやりたいと言い出したんだから出来るまではやらせるぞ」
「むー」
ブラウは納得いかないと言いたげだが、新しい人形を設置し、再び木刀を構えてを叩く。相変わらずの気の抜けた音を発している。
「ほら、もう少し集中してやれ。まず構えはこう、手はこうで…」
ルーフスがあれやこれやとブラウに教えているところに、建物からシスター姿の女性が出てきた。穏やかな笑顔を二人に向ける。
「二人とも、お昼ご飯が出来ましたよ」
ブラウはパァッと目を輝かせながら女性の方へと振り返る。
「やった!ご飯!」
そして、木刀を雑に放り投げ、そそくさと建物の方へと走っていく。
「おいブラウ、人形が斬れるようになるまでやるんじゃなかったのか?」
「それは食べてからやるよ!今日は朝早くからやってて疲れたし」
「全く…」
ブラウはあっという間に中へと入り見えなくなった。
ルーフスは呆れ顔をしながらも、周りを軽く片付けた後に自身も建物内へと入っていった。
***
「兄ちゃん遅いよ〜!」
「ごめんごめん!」
食堂に行くと既に他の子供達は座っており、テーブルにはサラダや焼き立てのパン、パスタなどが並べられていた。
ブラウやルーフス、シスターの女性が座ったあと、皆、祈りを捧げてから料理へと手をつけた。
昼食が終わり、ブラウが片付けをしていると、一人の少年が声をかけてきた。
「ねえねえ、兄ちゃん!見て見て!」
「ん?どうしたのシン」
その少年、シンはウキウキとした様子で両手を出し、何やら力を込め出した。
すると、その手の平からぼこぼこと水が溢れ出てきた。
ブラウは「わっ」と目を見開く。
「シン魔法使える様になったんだ!凄いね」
「ね!ね!すごいでしょ!おれ天才かも!」
ブラウの素直な感想に、シンはフフンッと自信あり気に返事をする。
「けど…床は後で拭かないとね…あと服も」
「…あっ」
シンが下を見ると、服は濡れ、床は水浸しになっていた。手からは相変わらず水が生成されており、今現在も床が広範囲に濡れていく。
「こら!シンくん!!」
背後から突然声が聞こえ、ビクッとシンは肩を震わせた。恐る恐る振り返ると、先程のシスターが腰に手を置き、怒った表情をしていた。
「ウッ…パスカル姉ちゃん…」
「また場所も考えずに水魔法使ったの?外でしか使ったらダメって言ったじゃない!」
「ごめんごめん、ちゃんと拭くから許してよ〜」
「もう…」
シスターの女性――パスカルはそう怒りながらも、僅かな笑みを見せながら、シンと二人でモップと雑巾を持ってきて床を拭き始める。ブラウも一緒にそれを手伝った。
「もう少し訓練したら、水で球体とか作れる様になるかな?」
「そうね、前よりも水を出すのは慣れてきたみたいだし、次はその練習をしないとね」
「よし!頑張ろう!ねえ、ブラウ兄ちゃんも…あっ」
シンはしまった。と口を手で押さえた。しかし、ブラウは変わらずの表情で笑ってみせた。
「別に気にしないで良いよシン」
「でも…ごめんなさい」
「だから謝らなくて良いって。…よし、一通り拭けたね。オレ、これ戻してくる」
ブラウはモップと雑巾を持って、元の場所に戻しに行く。
シンは相変わらず反省の顔を見せていたが、パスカルが彼の肩に手を置いた。
「気にしないで大丈夫よ。むしろ、そんな顔してたら余計に不安にさせちゃうわ」
「うん…パスカル姉ちゃん…」
シンはそう言うと、ブラウが出ていった方を暫く眺めていた。
Another Utopia ちはや @botako_30
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