Another Utopia

ちはや

序章

プロローグ

 その日はかなり冷え、雪が降る真冬の時期だった。

 雪景色となった街の外れに一人ぽつんと薄汚れた少年が倒れていた。


 ぼろぼろの布切れ一枚のみを身につけ、そこら辺に落ちていた新聞紙を地面に引き、少しでも寒さを凌ごうと縮こまっている。

 寒さからか、少年の足は真っ赤になっていた。

 彼が息を吐くたび白い息が出ては消えていく。


 目の前には暖かそうな衣服を着ている人達が次々と通り過ぎて行く光景が見える。

 皆、少年の方へは目もくれず、まるで彼がそこには存在していないかの様な素ぶりだ。

 誰もこんな薄汚い孤児に話しかけようだなんて思わない様だ。


 少年の腹がなる。そういえば昨日から何も食べてなかった、と少年はぼんやりと思った。

 だが、食べ物を探そうという意欲さえ湧かなかった。動いたら疲れるし、食べ物が手に入る保証はない。だから、何もせずじっとするしかなかった。


(なんだか眠たくなってきたな…。このまま寝ようかな…)


 瞼が重くなっていく。此処で寝てしまえば、確実に死んでしまうだろう。

 けど、不思議と恐怖はなかった。むしろ、このまま死んだ方が良いのかもしれない。


 自分みたいな無価値な人間なんて、生きてても何も残せない。

 所詮、そんなものだ。


少年はそう考えながら、瞳を閉じる。


「おい、しっかりしろ…!」


 ふと、頭上から声が聞こえた。男性の声だった。


(…誰?)


 少年は目を開け、顔を上げる。

視界がぼんやりとしていて、はっきりとは顔が見えなかったが、酷く目立つ赤髪だけは認知出来た。その赤毛が風に靡きサラサラと揺れる。


(ああ、綺麗だな…)


 少年はそんな呑気な事を考えながらも再び強い眠気に襲われ、目を閉じた。


(すごく、眠い…)


 男性が何か叫んでいる様だったが、上手く聞き取れない。そろそろ少年も限界の様だ。

ただ、かろうじてこの言葉だけは聞こえた。


「必ず助ける」


 それを聞いた後にすぐ、少年の意識は暗闇へと堕ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る