第3話
突然、シーンとなる楽屋。
嵐が過ぎ去った感、満載だな。
「あの、先輩」
フクが突然立ち上がり俺に花束を渡してきた。
「少し早いですけど、卒業おめでとうございます」
フクの笑顔に思わずあほ面になる。
「は?」
「だから、卒業。おめでとうございます」
大澤が立ち上がってケーキを渡してきた。
「これ、詩織と作りました。
先輩の好きなチーズケーキです」
何だこれ。意味分かんねーし。
「まぁ、卒業って言っても、どうせ毎日のように学校に来るんでしょうけど。
でもやっぱり、いなくなることは確かなんで」
何で俺、こんなに泣きそうなんだろう。
「先輩がいなかったら俺達、いまここでこんな格好してないですから!」
カクの言葉に皆が笑った。
「そこにお手紙も入ってます」
スズが花束を指差す。
よく見てみると、なるほど、確かに手紙が四つ、入ってた。
「お家で読んでください」
スズの笑顔がなぜか霞んで。
「せんぱい、もう泣くんですかー?」
「なかねーよ!泣いてねーっつーの!」
カクの指摘に思わず目を拭う。
「……ボチボチ、ステージ裏に移動しますか」
フクがそう言うと大澤とカクも後に続く。
俺も立ち上がろうとしたらスズに裾を掴まれる。
「せんぱい、」
他の三人は何も気付かないフリをして、さっさと楽屋を出ていった。
「卒業、しちゃうんですね」
更に静かになった楽屋で時計の音が響く。
「そうだな、しちゃうな。」
寂しそうにしてくれるスズに笑いかけると、スズが俺に抱き着いてきた。
「……留年しなかったですね」
「ギリギリ免れたな」
「先輩がいなくなったら、やっぱり寂しいです」
前、二人で帰った時もそう言われた。
「先輩は言いました。
いなくなったらその穴は必ず誰かが埋める。
そうやって世界は回るって」
スズの腕の力が少し、強くなった。
スズの温かい息が耳元にかかる。
「だけど、先輩。
私の隣に空く穴は誰も埋められないです」
何て返せば良いか、わからなかった。
「だけど、それでも世界は回ります」
スズの声が震えていた。
「居なくなる訳じゃないのに、どうして卒業ってこんなに寂しいんですか?」
中学からの卒業も、小学校からの卒業も、ちっとも悲しくなかったのに、高校からの卒業はものすごい寂しい。
俺はスズの唇にゆっくり、触れた。
「……先輩が他の人と、私以外の知らない人と、新しい関係を築いて遠くに行ってしまうのはいやです」
「わがまま言うな」
優しい言葉をかけたかったけど、スズの言うことは否定しようのないことだから。
「それが卒業だ。
そうしないと俺達は一向に成長しねーだろ」
「……でも、」
「俺も嫌だよ。不安だよ」
深くキスしたらスズの息があがる。
「お前が俺の知らない所で可愛くなっていくのは不安だし、嫌だ」
淳士みたいな奴ばっかりだからな。
高校生なんて。
「だけど、それはしょうがねーだろ」
スズの唇に唇を押し当てるようにキスし指を絡めて唇を舌でなぞる。
「だから、すず。
穴は埋めないで空いたままでいてくれよ」
肩で呼吸するスズをもう一度、抱きしめた。
俺の高校生活なんて、どこにでもあるものなのかもしれないけど。
だけど、俺にとっては本当にキラキラしてる大切なものだ。
「空けといてくれれば、いつでも俺はお前の隣に行けるから」
すると今度はスズの方から俺の唇に触れてきて恥ずかしそうに下を向く。
「じゃあ、先輩も私の分を空けといてください」
俺は立ち上がりスズの手を引いた。
「俺の横なんて、スズ以外来たがらねーよ」
「卒業、おめでとうございます」
俺の手をギュッと握る。
「今日のライブも楽しみましょう」
涙を拭って笑顔で言った。
2010.05.22
君を愛してる。 斗花 @touka_lalala
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