第2話 嘘の代償
死ぬ。
気を抜いたら死んでしまう。
呼吸が荒い。心臓が爆発しそうなくらい鼓動を刻み、冷や汗が止まらない。
――それもそのはず。
学生にとって“それ”は、バレたら即死を意味する所業だからだ。
俺は今、前期末テストの最中に、
一心不乱にカンニングをしていた。
***
昨日は散々だった。
吉乃茜に嘘をついてしまったことへの後悔に打ちのめされ、自分の部屋のベッドで延々と悶え苦しむ羽目になった。そして結果、全くと言っていいほど勉強ができなかった。それどころか、一睡もできなかった。
――だから、今こうして禁忌に手を染めている。
背筋を伸ばすフリをしながら、俺は長身を活かして隣のクラスメイトの机を覗き込む。これを延々と繰り返す地道な作業だ。もちろん、全方位に注意を向けながら。
隣の席にはクラスの学級委員長の女の子が座っている。彼女は成績優秀者というわけではないが、少なくとも俺よりは遥かに点数が取れる。赤点回避さえできれば良いんだ。
だから頼む、どうか気づかないでくれ……!
心の中で何度も祈る。祈りながら、少しずつ彼女の答案の文字を目に焼き付けていく。右手はペンを握り、頭の中で文脈を再構築しつつ回答を書き込む。これが俺の今日のミッションだ。
チャイムが鳴った。最後のテストが終了した。
ミッションコンプリート……!
と、言いたいところだが、俺の顔色はまだ険しいままだった。
だって、今日の本当のミッションはまだ終わっていないのだから。
放課後、嘘を信じ込んだ完璧ギャルの“吉乃茜”に絶対に会うことなく、速やかに帰宅するというミッションが。
そもそも、休み時間からして危なかった。
吉乃はまるで獲物を追い詰めるハンターのように、休み時間になるたび俺のいる教室に張り付いていた。友達のグループと笑いながら談笑しているフリをして、時折こちらに目を向けているのが分かった。それも、タチの悪いことに次のテストが始まるギリギリまで張り付いていやがった。
だから、俺は休み時間中はずっと、ベランダの隅で黒板消しを叩くフリをして隠れていた。白い粉が舞う中、テスト前に教科書を眺めたい欲求と闘いながら。
そういうわけで、下校時間。
俺は恐る恐る教室のドアから顔を出す。そうして、左右を確認する。
瞬間、俺の視界に飛び込んできたものは、こちらに向かって疾走してくる生徒一名。
……何かがおかしい。スピードが尋常じゃない。
「おい、嘘だろ……」
遠目でも分かる。あの金色の綺麗な髪、透き通った青い瞳――吉乃茜だ!
「あ、カイだ!!!!! やっぱり、いた!」
彼女の声が廊下に響き渡る。
俺は反射的に逆方向に全力で駆け出した。
「ちょっと! なんで逃げるのぉ!!!!!」
吉乃の叫び声が背後から追いかけてくる。 もはや、俺にとってはホラーだった。
靴の音が廊下に響く。すれ違う生徒たちが驚いた表情で振り返るのが見えたが、そんなことを気にしている暇はない。俺はただひたすらに逃げた。なんか、既視感を感じる。
――あれから、どれくらい走っていたのだろうか。気づけば、俺は自宅の前までたどり着いていた。
シャツが汗だくだ。
とりあえず、玄関の扉に背中を預け、息を整える。
「危なかった……」
胸を押さえながら、俺は空を見上げる。夕焼けがやけに眩しい。
でも、ここまで来ても脳裏に浮かぶのは……追いかけてくる吉乃の姿だった。
「あぁ、勘弁してくれ。こんなのがずっと続くのか?」
逃げ切れたことに安堵しながらも、俺は頭を抱えていた。
果たしてこの嘘、いつまで持つんだろう――。
声が似てるだけなのに有名Vtuberだと嘘ついたら、ギャルにガチ恋されました さやまる @SAYA_SAYA_SAYA
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