もう寝なさい
山代悠
おやすみ
高校生になると、なぜか夜遅くまで起きているようになる。
課題が多いから、という人もいるかもしれないが、多くはゲームや動画視聴など、自分の趣味に費やす時間を作り出す手段として夜更かしを選ぶのだと思う。
彼も、その一人であった。
そして、夜更かし好きの高校生にとって、親の存在は時に厄介なものとなる。
「早く寝なさーい」
この言葉は、まさに、耳にタコができるほど聞いてきただろう。
夜更かしをしている本人にとっては、気に掛けるまでもない言葉であり、言われてもベッドに向かうのは30分以上後になることがほとんどであろう。よほど疲れているとかでなければ。
彼も、母親に「寝なさい」と声をかけられても、すぐにはベッドに向かわず、あいまいに返事をして、自分のしていたことを続けるタイプであった。
声をかける側からしても、声掛けをしたところですぐに寝てくれるとは期待していないのだが、一応声はかけておくのだ。
あなたのことを気にかけているんですよ、と無意識のうちにアピールしたがっている証拠なのかもしれない。
あるいは、親としての責務を果たしているという、ある意味で自分を満足、安心させたいのかもしれない。
彼の母親は、息子がなかなか寝ないことを知っていた。
だが、ツケが回ってくるのはあくまで彼自身で、高校生にもなったのだから、自分で寝不足の責任(?)くらいはとってほしい、と考えていた。
ある時から、彼は暗い顔をしている時間が増えた。
学校でももちろんそうだが、家でも浮かない顔をしている。
両親に、何かあったかと聞かれても、その重い口を開こうとはしない。
そして彼は少しして、自殺してしまった。
だが彼の母は今日も息子の部屋に声をかけ続ける。
「もう寝る時間だよ、早く寝なさい」
照明など、点いていないのに。
息子はもう、起きることはないのに。
もう寝なさい 山代悠 @Yu_Yamashiro
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