明日、隕石が降ればいいのにと俺は言った
バルバルさん
そして俺は第一志望を落とす
「あーあ、
そう
コンビニ
ならばいっそのこと、
その
とは
……とも
ここ
これで、
「……ん?」
その
……え、
と、
「そこの
「え」
「そこのコンビニの
そう
よくよく
……というか。
「え、
「そうとも」
そう
「
「はあ」
「だから、
「はぁ?」
いや、
「あ、
「もちろんお
「ぶっ……っ!」
「ちなみに、それは
「もちろん」
……まあ、おにぎりもパンも、お
ならば1
「ほら、エビマヨおにぎりとシャケおにぎり、
「ツナマヨやサンドイッチはないのかい?」
「ない」
「ちぇ」
……
「ほら、
「もひろん、そうふるつもりは。たか、もうすこしあとにな」
もう
そう
「まあいいや、じゃあさよなら」
「ああ。またよろしく」
また、なんて
その
◇◇◇
まあ、
だが、
まさか
「やあ、
「また
「……まさか、あれから
「
「そーですか」
そういう
まあいいや、
じゃない。なんで
「まあいい、
「え、
「ずっとではないよ、10
「
まじか。この
「
そう、
「ふふん。
「
「
はぁ、とため
「ほら、それ
「おや、
「あー、はいはい。
「ならよし。
その
とりあえず、
「おや」
「
そして
すると
「
え、マジで?
◇◇◇
その
「おや、
「
「そうそう、
「そうそう、とうどうぜんま……え?」
まあ、そんな
「なあ、
「そう、そうとも。
「あと
「
とはいえ、それを
「いや、
「
「……あー、はいはい」
なんか
「まあ、
「
「そう。
「で、
「まだ
「
「
なんか、
まあいい。こいつの
「なんで?」
「え、だから
「じゃなくて、なんで
こいつには、
それを
「うむうむ、
そして、
「この
「はい?」
「もっとかみ
「はぁ……」
「まあまあ、
「
「え」
「また
「ちょ、ちょっと」
だが、まあ。
そう
◇◇◇
「よお」
その
なので、
まあ、そんな
というか、
さて、
「あ、君」
「上着は乾いたの?」
「あ、ああ。超能力を使うまでもないよ」
「ありがと、寒かったんだ」
そう言って、彼女から上着を受け取り。
「名前」
「え」
「俺の名前一方的に知ってるの、なんか変だろ? アンタの名前教えてよ」
「な。なんだい? ナンパかい? まったく、いくら私がかわいいからって……」
「そうだよ」
「……っえ」
「で、名前教えてくれるの? くれないの?」
「あ……茜。美空茜……だよ……」
「ふーん、じゃあ茜って呼ぶわ」
「え、あ、う」
「茜。世界さ、アンタの隕石で滅ぶんだろ?」
「そ、そうとも! このくだらない世界は、私の呼び寄せた隕石で粉々に……」
「じゃあ、その前にデートしよ」
「は?」
「計画は昨日立ててきたから。ほら、ボケっとしてないで、行くよ」
「ま、ちょ、えー……」
そのまま、俺は彼女を連れて、やや無理やりにデートに向かった。
こういう相手は、畳みかけるように話して調子に乗らせないことが重要だ。
妹でそういうのは経験済みだから助かった。
さて、まずは王道で水族館でも行くか。
「おー! すごい、全面海みたいだ!」
「おー、そうだな」
到着すると、茜はびっくりするほどに目を輝かせて、ガラスの向こうの魚群に興奮し始めた。
いい機会なので近くで彼女を観察してみる。
自分に比べれば小柄。同じくらいの年齢だとは思うが、同じ高校の女子に比べると、なんか子供っぽい雰囲気だ。
冬に外で長時間寝転がるなんて、宇宙人かと疑う奇行だが、腕に残る何重ものリスカの跡を見て、その考えは捨てた。
「ほら、何をしているんだ! 早く先に行こう。この先、クラゲコーナーだって!」
「はいはい。今行くから待ってろって」
ただ、意外に隣にいて楽しいし、悔しいがとても仕草が可愛らしい。
仮に隕石落としが本当だったとして、まだ死にたくないけどどうせ死ぬなら、その前にデートという物を体験したかったという下心で誘ってみたのだが、そんな考えが申し訳なくなるほどに、俺は楽しいし、彼女も楽しんでいると思う。
そのまま、水族館でのデート、その購買所でのショッピング、レストランでの食事……と、デートは計画通りに進んだ。
その間、様々な物事に目を輝かせはしゃぐ彼女が、なんだか眩しかった。
ただただ眩しかったとしか言えないが……あまり内心でとはいえ褒めるのも悔しいので、気のせいだと思う事にした。
でも、帰り道には茜とデートできてよかった。なんて思うくらいには惹かれていた。
そして日も暮れてきて、水族館から空き地に戻って来た。
彼女の手には、水族館で買ったぬいぐるみなどが入った紙袋。
「いやぁ、楽しんだよ! ありがとう。善真君!」
「善真」
「え」
「呼び捨てでいいよ」
「わ、わかった。じゃあ、善真……今日は、楽しかったよ。じゃあ私はこれで……」
と、帰ろうとする彼女の手を取った。
「何言ってんだ」
「ふぇ?」
「家、行くぞ」
「え。え」
「お前のな」
◇◇◇
茜の家は、普通のなんてことはない一軒家だった。
チャイムを鳴らすと、小さい音と共に、戸が開く。
「あ、こんばんは」
「あなたは?」
そこから出てきて俺を怪訝な目で見るのは、多分、茜の母親。
俺の後ろからひょこりと顔を出した茜を見ると。
「茜!」
「あ、えっと、その……」
何やらもごもごいう茜を俺は無視し。
「娘さんとお付き合いさせていただいています。藤堂善真と申します」
「ぶっ……っ!」
後ろで茜が噴出したが、無視しつつ茜が何事か言う前に。
「今日は遅くなり申し訳ありません。一緒に水族館へ行かせていただきまして、こうして挨拶もご一緒に」
「あら、あらあらあら!」
お母さんらしき女性は、礼をしながらの俺の言葉に喜びをにじませた表情をして。
「ちょ、ぜんま」
「ちょっと上がっていきませんか? 荷物もあるようだし!」
「ちょ、ママ……」
「ありがとうございます、では……」
こうして、俺は茜宅に上がった。
そして、恐らく恥ずかしさで顔を真っ赤にした彼女の隣に座って、そのお母さんと少し話をさせてもらった。
茜の好きな事、好きな物、もっと幼い頃の事……
「……っ! 部屋戻る!」
その恥ずかしさに耐えられなくなったのか、彼女は部屋に戻っていった。
「でも、本当に善真君がいい人そうで良かった」
「いえ、僕は……」
「あの子、超能力がどうのって言ってなかった?」
「え、ええ。言ってました」
「その力。私は信じてるの」
「……そうですか」
「やっぱり母親ですもの。あの子がいうなら、そうなんでしょうって受け入れる。でも……」
「世の中は、そこまで温かい言葉では包まれてませんよね」
「……ええ。やっぱり、超能力抜きにしても、あの子は変わってるから。色んな言葉で、行動で傷ついてるの。でも私は……あの子の限界に、気が付けなかった。どんな悲痛な思いで毎日を生きてるか……その限界に。そのせいで、私はあまり好かれてないけど、あの子には幸せになってほしいの」
その言葉を、静かに俺は聞く。
彼女が切り付けられた言葉の刃、行動の暴力。その痛さは……俺にはわからない。
でも、きっとそれは。
この星を隕石で滅ぼそうと決めるほどには痛かったのだろう。
そうとだけ思った。
◇◇◇
次の日。俺と茜は、また空き地にいた。
「ちょっと、善真君!」
「善真」
「……っ、ぜ、善真!」
そして、彼女は真っ赤になりながら俺に突っかかっている。
「昨日は、あの、その、その!」
「隕石」
「え」
「あと三日で降ってくるんだってな」
あと三日で隕石はこの星に衝突するらしい。
そして、人類の文明は……いや、この星の生命全てが終わる。
「そ、そうとも!」
「お前が、隕石どっか行けって願えば、隕石はどっか行くのか?」
「……もしかして」
「あ?」
「もしかして、私にそう願わせるために、あんな彼氏の真似事したの?」
そういう彼女の表情は、なんといえばいいのだろうか。
絶望も、嫌悪も、軽蔑も侮蔑も混じった、そんな顔。
そのおでこを、ピンとはじく。
「痛!」
「ばーか」
「何をぉ?」
「そんなことするほど暇じゃねぇよ」
「え」
「滅ぼしたいなら滅ぼせばいい。お前がそう願って、そうなるなら……この星は、お前一人分の価値しか無い星なのさ」
そう言って、俺はポケットから指輪を取り出す。
「ほら」
「え」
「指輪」
「み、見ればわかるよ……」
「正直、俺は死にたくない」
そして、俺は彼女に本心をぶつける。
「滅びたくない。生きたい。明日も、明後日も、来年も、その先も」
「……でも、それは無理だよ。私が、隕石で滅ぼすから」
「そうかもしれない。だから、その願いの次に強い願叶えとこうかなって」
「え?」
「昨日、俺から強引に誘っといてなんだけど、めっちゃ楽しかった。あんなに隣にいて楽しいって思える相手、家族以外で初めてだった。茜と、残りの時間を過ごしたいって思ったんだ」
だからさ。
「これ、受け取ってよ。世界滅びなかったら、もう少し段階踏んだんだけど」
「……ば、ばか、じゃないかな? 君は……」
「そーかもな」
「そういうのは、もっと、ふさわしい場所があるだろう!」
「例えば?」
「え、えーと、えーと……レストランとか、お花畑とか……その……」
「ん?」
「君の、家とか?」
◇◇◇
「ただいま」
「……ここって」
「そ、怪獣災害の仮設住宅」
彼女を俺の家に招待した。
なんか、指輪を受け取るなら俺の家で。などとごねるので仕方がなく。
「言ったろ、何もないって」
「お、おとうさんとか、おかあさんは?」
「一昨年まではいた。妹も」
今はこれが家族さ。
そう言って、位牌と写真の並んだ机を示す。
「そんな」
「茜の家は別の街だから知らないか。一昨年な、怪獣がここら辺一帯を焼き払ったんだ。で。俺は学校にいて無事だったんだけど、みんな、みーんな灰になった」
「……あ、う……」
「だから、正直な話……世界が滅んでも、良いんだ」
「え、でも、でも!」
「ああ、滅びたくない、生きたいさ。でも、滅びも、死も……それが仕方がないなら受け入れるよ」
「う、え、ぇ……」
そこで茜が吐き出しそうになっているのに気が付き、慌て背をさする。
「ごめんな。はやく、ここから出よう」
「う、うう、ん」
真っ青な顔になりながら、首を振る茜。
「……めん」
「え」
「ごめん、なさい。ここ、善真の家族がいるのに……」
「あー、気にすんなって」
そして、俺達は家を後にした。
また、空き地に戻る。彼女は真っ青な顔のままだ。
「……っ」
「茜」
「世界、終わるね」
「……ああ。あと三日くらいでな」
「善真……指輪」
「ん?」
「つけてもらって、いい?」
「ああ」
すっと、俺は彼女の指に指輪をつけた。親のたった一つの形見を。
「……温かい……」
「そうか?」
「うん……世界が、こういう温かいだけの世界だったら、私……」
「……そうかも、な」
「また、明日も」
「ん?」
「明日も、明後日も、しあさっても、その先もここにいるよ」
「ああ」
「また、来てほしい……ダメ、かな」
「良いさ……あ、だけどしあさって以降は無理かも」
「なんで?」
「だって、その時には世界終わってるんだろ?」
◇◇◇
隕石は、もうすぐ阻止限界点に到達するという。
だが、今日もいつも通りの一日が始まった。
今日にいたるまで、毎日、俺と茜はこの空き地で交流した。
やはり彼女がいるというのは気分がいい。まあ、こいつは変わり者だが、それを差し引いても、やはりいい子だというのは痛いほどわかった。
「善真」
「ああ」
「明日、世界は終わるね」
「そうだな」
怪獣用シェルターも、隕石の前では無意味だ。
だから、避難した人は少ないという。
皆が、明日で終わる世界で、明日終わってくれるなと思いながら、恐怖を胸にしまい、普通に生活をしている。
「……キス」
「え」
「キスして」
いきなりだな。
だけど。そういえばしてなかったな。
「なんだよ、今しろってか?」
「うん」
「……」
「あはは、顔、真っ赤だね」
「うるせぇ、お前も真っ赤なくせによ」
そして、お互いに甘めのドリンクを飲んだ後、俺と茜はキスをした。
甘い、甘いキスを。
「……」
「善真?」
正直、感無量である。
初めてのキスが、こんなに幸せでいいのだろうか。
ああ神様。どうかもう一度、明日キスしたい。
「あーあ、明日隕石は降らないで欲しいなぁ」
「……」
「なんて、もう無理かぁ」
そう笑い、彼女を抱き寄せる。
その表情は見えない。でも温かい。
その時、雲の遥か上を一筋の光が進んでいくのに気が付く。
「あれは?」
その光は、真っ直ぐ北へと向かう。
そういえば、ニュースでやっていた。
隕石を破壊するための粒子砲!
◇◇◇
その時、地球の三か所から光が隕石へと向かう。
地球防衛軍の対隕石用粒子砲だ。その光は、隕石へと吸い込まれ……
瞬間、粉々に吹き飛ばした。
◇◇◇
携帯端末にニュース速報が入る、隕石が、砕かれたと。
やった、やった、やった、やった!
明日も、明後日も生きられる。滅ばなくていい!
正直、俺自身は諦めていた。明日世界は終わると思っていた。
が、終わらない。俺の関係ないところで世界は救われたらしい。
そうなれば、明日も、明後日も茜と一緒にいられる。またキスができる。
それが嬉しすぎて、逆に感情を整理するために混乱するほどだ。
「茜、隕石が砕けたって! ……茜?」
だから、彼女の異変に気付くのに遅れた。気がつけば、俺の胸元は真っ赤だった。
彼女の吐血で。
「茜!」
「ふ、ふ。良かったね。善真。世界、救われた」
「なにが、どうなって……」
「……っ。君は気にしなくて、いい。ただ、隕石を引っ張るのは……私もノーリスクじゃ、無かったのさ」
「ま、さか。隕石が砕かれたのって」
「違う、それは私じゃない……でも、隕石と、私はリンクしてたから……隕石が壊れれば、私も」
「そ、んな……っ」
「ふ、ふ。この世界は、私一人以上の、価値があった……それだけだ、よ」
「違う……そんな……そんな……」
「善真」
――大好きだよ
そう彼女は、最後に俺を呪って。
隕石の崩壊と共に、彼女にとっての狭く小さな世界は終わった。
◇◇◇
彼女がいなくなっても、世界は回る。
どうやら、彼女が言った通り。世界は彼女一人分以上の価値があったようだ。
世界中の、明日を生きたいという願い、想い。それが地球防衛軍の隕石破壊作戦を後押しした……のだろうか。
それとも。実は彼女が隕石落としを止めて破壊してくれたのか。
いや、そもそも茜は本当に超能力者だったのか?
あの後、彼女の鞄から薬が見つかったらしい。詳しくは教えられなかったが、多分、自殺用の。
それに、俺の名前を当てたのだって、俺の上着に書かれた名前から当てたのかもしれないし、隕石だって、虚言だった可能性の方が高い。
だけど、茜のお母さんの言葉じゃないが……きっと、茜は自分の世界に絶望した超能力者だったんだ。
そして、自分の人生という世界を、自分で壊してしまった……
そんな超能力者が、俺に、大好きという呪いをかけてくれた。
ったく、茜……これじゃあ俺、お前以外、好きになれないじゃないか……
死後も俺に迷惑をかけやがって……俺も、大好きだよ。
とはいえ、死を悲しむばかりはできない。俺の世界は、俺の人生として勝手に回っていく。
彼女の死が、俺の大きな傷跡になりながらも、痛みに気付かないふりができるようになってからしばらくして。
入試の結果が届いた。
第一志望は落ちていた。
「あー……」
――あーあ、明日隕石でも降ってくりゃいいのに。
なんて空に呟こうとして、やめた。
霊になった彼女が叶えてきたらシャレにならない……なんてな。
そう思いながら、家族の写真の隣に、一つ増えた写真に笑いかけた。
◇◇◇
――そうとも!
――君が願えば、なんだって叶えるよ!
――隕石だってもう一度降らせるし、彼女は……無理だけど……
――だから善真。私が呪った世界で、私の呪いを胸に、いっぱい生きてね。
――いっぱい……
いっぱい……
……
明日、隕石が降ればいいのにと俺は言った バルバルさん @balbalsan
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