遭難
骸骨
9月6日
あの時、なぜ自らの命を絶とうとしたのかと問われれば、答えようがない。「わからない」としか言えないのかもしれない。悲しみと苦痛が交錯し、心の奥底から導かれるままに、唯一の道を選んでしまったのだろう。あの秋の曇り空の午後、死という見えない糸に引かれ、屋上へと向かった。一歩踏み出せば、すべてが終わるのだ。
僕の告白を「鬼塚さんが好きなわけがない」と一蹴した日向。「根性があるなら反撃してみろ」と言って、僕のノートを破り捨てた佐藤とその信者たち。眼鏡を押し上げながら早足で去っていく青野先生。臭気を放つ散らかった家。一日中酒を飲む父親。泥酔した父親によって水槽が割れ、唯一の友達、阿修羅が水不足で死んでしまった。母の遺影が、そこに静かに佇んでいた。
さまざまな引き裂かれるような記憶が頭の中で交錯し、心臓を刺すような鋭い痛みを今でも覚えている。しかし、それがどうでもよくなるほど、あの血のように赤い線をたどり、短い距離を越え、冷たい灰色の秋空に足を踏み入れれば、すべてが終わるのだ。
そう思った僕は、涙でぼやけた視界を気にせず、屋上への階段を駆け上がった。錆びたドアノブを回すと、灰色の光と共に冷たい風が容赦なく吹き込んできた。数羽のカラスが遠くのビルの間を舞い、まるで僕の破滅を予見しているかのように、視界の中で旋回していた。
学校の屋上の端に立ち、冷たく湿った手すりを握りしめる。遠くには積乱雲が迫り、誰も僕に気づかない。運動場では、部活に参加している生徒たちが楽しそうに笑いながら何かに向かって歩いている。そんな彼らの姿を見ることが、今の僕には耐え難い。もし死ぬ前の記憶を採点するなら、これは間違いなくFランクだろう。
僕は秋の空に向かって頭を上げた。手を放ち、流れる雲に向かって一歩踏み出せば、すべてが終わる。そう思った。もう悲しみも痛みも感じない。泣き寝入りもせず、失うものは何もない。
バン!
......
「人間よ、お前の死に様は実に醜いな。」
......
「お前は死ぬまで誰からも愛されなかった。お前の世界では、幸せを感じたこともなかっただろう。お前の心は悲しみと憎しみで満ち溢れていたに違いない。本当に悲しいことだ。」
天使ですか……?僕を迎えに来た天使だろうか。どうか同情して、この哀れな僕を苦しみのない天国へ連れて行ってください。……いや、ダンテは自殺者は地獄に落ちると言っていた。そうだ、天使ではありえない。まさか悪魔?
「お前のような人は、奴隷候補としてこれ以上ないほど完璧だ。」
奴隷?
「その代わり、お前の人生が以前のように悲しくならないように、私がお前を愛し、幸せにしてやる。どうだ、いい取引だろう?」
血に染まった視界がぼやけ、僕は、カラスの鳴き声を聞いた。
遭難 骸骨 @skeleton101
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