第4話 失踪

連続老若男女失踪事件。


ここ一年で急増した行方不明者をいわば一人あるいは複数人の犯行として一つに繋げたものだ。

確か奇妙な共通点があるからこそ繋げられたと院長が言っていたっけ。

最近では少しだけ世間をにぎわせている有名な事件だ。


「でもあくまでオカルトでしょ。」


「えぇ、私達も最初はそう考えておりましたしかし、、」

この人の口ぶりまさか

「そうではなくなったとでも。」


「はい、察しが良くて助かります。」

そう言葉にすれば優希は懐からとある紙を一封出そうとしてそれを取りやめた。


「どうしたの?」


「いえ、ここではだれが聞いているともしれませんから場所を移そうかと」

そう耳元で囁かれて確かにと得心し。

ワタシは彼の言うまま場所を移すことにした。





















「私が言うのもなんですがよくのこのことついて来てくださりましたね正直拍子抜けです。」

とは彼が喫茶店に入って席についた後に肩を竦めて話した言葉だ。


「うん、今は夫も海外出張だからね。家に帰っても誰もいないし迷惑もかけないでしょう。」

「なんだかセリフがいかがわしいですが、いいでしょう。すみませんコーヒー二つ私はアイスで、そちらの女性は。」



「ホットで。」






お互いがコーヒーを思い思いに味わったころ。

「ところで連続老若男女失踪事件が実在するという根拠は。」


ワタシが本題へと切り出した。



「えぇ失礼ここのコーヒー豆はおそらくは豆自体は平凡なのですが淹れ方、温度調整が絶妙で、とても努力の窺える味でしたので夢中になってしまいました。」

後ろでなにやら老人がうんうんと頷いているが気にしないでおこう。

そうしていればその間に老人と私の視線の間に割って入るようにウェイトレスさんが入り込んできた


「すみません。コーヒーをおかわりください。」

優希はそれなりに無邪気な態度でコーヒーをウエイトレスさんに頼んだ。これで七杯目である。


「飲みすぎでは。」

「この程度では問題ありません多少の融通は効くもので。」

と返された、こっちは心配をしているのだが、、、まぁいいか。

しばらく彼がコーヒーをすする音が聞く事となった。コーヒーを味わいたいならホットが良いと思うのだが彼はどうしてアイスを頼みそれを愉んでいるのだろうか?


「いいえ~。確かにホットのほうが味だけではなく風味も楽しめますが存外にアイスの方が味単体で楽しめるのですよ。」

コーヒーは味というより風味を楽しむものなのではと思ったが口にしないようにした。

今はそんな事よりも。



「その一杯を呑み終わったら教えてくださいね。連続老若男女失踪事件が実在するという根拠とワタシをここに呼んだ理由を。」

そういい窓から外の喧騒を頬杖をついて眺めようとして

彼が懐に手を入れ封筒を取り出したのが目に入る


「わかりました夫人レディを待たせるワケにもいきませんので。事情をお話しましょう。」


男は語り出した。





















「まずこの手紙が置かれていたのは我々の同士の机の上でした。




「当時、連続老若男女失踪事件については世の中で騒がれていましたが我々魔術同好会は微塵も認知していなかったのです。



「なにせ我々の目的は魔術に対する探求とまだ見ぬ神秘を追い求めること。そしてその発展



「だからこそこの場合最近巷で囁かれ出した都市伝説などよりも

古からある伝説などについて探し求めることのほうが重要視されてきたのです。





「その方が魔術の発展にもつながりますからね。





「しかし、連続老若男女失踪事件は私達の同士にまでも魔の手を伸ばしてきました。




「最初は同士のただの悪ふざけだと考えていました。ただ世情に疎い我らを彼がただからかっているのだと




「失踪した彼は我らの中でもとりわけ世情に聡い者でしたからね。




「けれど手紙の内容を読んで我々の意見は一変します。





「彼は都市伝説を用い我々をからかおうとしたのではなくのだと判断せざるを得なかったのです。




「なにせその手紙には彼と我々同好会にしかわからない魔術的な細工を施されたメッセージと連続老若男女失踪事件に気をつけろという文字が書いてあったのですから。













「これが連続老若男女失踪事件が実在するという根拠とこの事件を我々が独自に調べようとした理由です。なにがご質問は」



カランとグラスの中の氷が崩れる。

しばらくの静寂のあと私は両手で持ってカップをコトンと置き彼に問いかける。




「それで肝心のワタシが呼ばれた理由は。」



「あぁ、失礼言い忘れていました。貴女をこの人の少ない喫茶店に呼んだ理由ですが、手紙に貴女の者と思われる魔力の残滓が付着していたから、、ではありません。」





「なら、、一体?」




「貴女に近しい者の魔力が発見されたからです。」


それは今の私にとっても最悪の答えだった。














『魔力というのは縁が深い程繋がりが強いものです。』




『例えば親と子、他人と友人なら前者の魔力が繋がりが強く、他人と見ず知らずのおじさん、友人とそのまた友人ならば後者の方が強いです。』





『記憶を失っている事はこのさい関係がありません。片方でも関係を覚えていれば繋がりはありますからね。』





『けれどどちらかが覚えていないということは一方は繋がりが消えているということ』




『貴女が事故で昏睡状態になったおかげでこの三年間は随分と苦労させられました。』





『失礼、責めているわけではありません。しかし私達が絞り込めたのは貴女と近い関係を持つというところだけ』






『ですからどうか犯人を誘きだすために全ての者と縁を切ってください、我々の導き出した犯人像通りであれば必ずや縁を切ったあとでも貴女の前に現れるでしょう。』





あのあと結局家に帰れなかったワタシは優希の紹介でホテルに泊まっていた。

今はシャワールームでシャワーヘッドから出る水に包まれている。

こうしていれば頭が冴えるからだ。

水がワタシの体を伝い排水溝に流れていくなかで

男の言葉を反芻し飲み込む


・・・ただ説明すべき事柄があまりにも抜けすぎているだけだ

矛盾点はない

けれど今のワタシにこのお願いを受ける義務があるかと問われれば




「無いんだよね。」


蛇口をひねりヘッドから流れる温水によって部屋に湯気が立ちこめた。





















髪を乾かしバスローブに身を包んだところで部屋のベルが鳴る。


ルームサービスを頼んだ覚えはないし来客の予定もない。


ここに人が来る筈などないのだ、部屋を間違いでもしない限り


であれば対処は早い方がいいだろう

そう考え扉ののぞき穴を使わず勢いよく扉を開ければ


二人の男が立っていた


背の高いがっちりとした男と、ほっそりとした壮年の男だ。

両方ともスーツにコートという装い

しかしがっちりとした男はワタシから目をそらし、壮年の男は瞠目しているようだった。



なにかしただろうか。



自分の服を眺めていれば襟の前が開いていた。

目に映るのはワタシの何故か大きい胸

栄養を吸い上げるソレは普段の服越しでの貞淑さを忘れ惜しげもなくその身の半分程を空気に晒していた

バっと反射的に前を閉じる。



「見ましたか。」


彼らの目を見て問えば


「「見ていませんよ」」


と二人同時に返される。

明らかなウソである。

がっちりとした彼はともかく

少なくとも壮年の男は必ず見ていた。

目ガッチリ空いてたし

おそらくワタシの顔は真っ赤になっていた事だろう。

記憶を失う前は知らないが異性に裸に近い姿を見られたのはこれが初めてだ


幸いなのはバスローブの前身頃が胸の頂点を辛うじて隠していたことか。解けた紐がショーツを隠すのに全く貢献しなかったことを鑑みれば大手柄である

おそらくは扉を開けるために走った際に緩く止めていた紐が解けたのだろう。

年若き女にあるまじき迂闊さだった

・・・・・けれど今はそれどころでは無い。



「なんの用ですか。」

前を止めて紐を結び顔を上げて問えば壮年の男は懐から黒い手帳を取り出した




「私は警視庁、都市伝説対策第一課小沢博と」



「同じく対策第一課大川勉です。」

小沢は冷静に、大川は緊張気味に手帳を見せて口にした。


手帳、警察手帳だ正真正銘の。



「警察がワタシに何のようです。」

怪訝な表情で問えば

小沢が大川を制し感情を感じさせない声でとある言葉を口にする。




「貴女の養母陽月梓愛さんが失踪しました。」



「え?」



運命の歯車がガチリと嚙み合う音がした。

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