第3話 再会と出会いその一

それからワタシはこの衰弱した体を元に戻すため半年間リハビリに努めた。

三年間眠っていたからかリハビリはつらかった

しかも記憶喪失の為知識の補填も行いながらもだ。





看護師さんから聞いた話だが記憶喪失にも種類があるらしい。


一つ目逆行性健忘症

発症以前の出来事を思い出せなくなる病気。新しい記憶を形成する部位がダメージを受けることで発症する。


二つ目前向性健忘症

発症以降情報を記憶できなくなる病気。海馬がダメージを受けることで発症する。


三つ目一過性健忘症

体験した出来事の場所や方法、目的などを忘れてしまう。



ワタシが発症したのは一つ目の逆行性健忘症であるらしい。

当初は自身の名前すら憶えていなかった為アイデンティティの喪失が疑われたが症状の改善が見られた為こう診断された。





そして今は姿見の前で自分の姿を検めている。


目に映るのは疲れた目をした白髪赤目の女。

以前との相違点を上げるなら頭についていた包帯が取れている事と顔や腕手指そして足にまでも肉がついている事、

そして髪を真ん中に流している事だろうか。

肉がついていると言っても平均よりは痩せているから主治医からもっと食べていいんだよ

とは言われているがなんとなく食事が進まないのだ。

頭を振れば白い髪がそれに振り回され首に圧力がかかる。長い髪特有の重さ

けれどこの重さもこの半年で慣れっこに成ってきた。

再び姿見に視線を戻せば真っ白い服がおそらくは肩と思われる部分がワタシの体からはみ出していた。

ワタシの病衣とは違う真っ白な服この服はきっと彼女のものだ。


「なに華、今肉の付き具合を観察してるんですけど。」

華というのは起きた時に初めて出会った女看護師の名前だ。

けれど彼女は今日ここにはいない筈。しかも背が彼女より大きい

ならば後ろにいるのは一体。




「やぁ元気かい。愛。」

透き通るような声と共にひょこと体から飛び出したのは高く一つ結びにした黒髪にぐるぐる眼鏡の女性、名前を「陽月梓愛しあ」ワタシの主治医かつこの陽月病院の院長にして











ワタシの養母だ





















「君の病症だが現状落ち着いている。事故で負った頭の傷も完治しているし、もうあとは記憶だけ、なんだが。なにか質問はあるかな。」

ペンをとんとんと黒いタブレットに立てながらの言葉に。

ワタシは特に答えない。

何故か?



「よろしい。質問はないみたいだね。そしたら今日中に退院するから、これ退院許可証。これがあれば君はすぐにこの病院から出ていける。」

手渡された電子パッドに映されるのは退任許可証の文字とその下の細かい文字。

しかし、それも頭に入らない

どうしてか?



「ありがとう・・・・・陽月院長。」


「いいよ、愛。君の養母おかあさんなんだし。最近は事件だなんだで物騒だからね早く家に帰れるように手配しておいたんだよ。

ところでお見合いの話なんだけど。」

この言葉を聞いたワタシはその理由を悟った

「それは断ります。」



・・・通算41回目の拒絶だった。







退院手続きを終わらせたあとワタシは一人でとぼとぼと家の帰路についていた。


時間はもう夜だ。ワタシは何故か目的地たる家どころかそこに続く道にさえ辿りつけないでいる。幸いな点を述べるなら院長が生活用品の入ったスーツケースと名紙というものを渡してくれた点か。

昔あった自己紹介の為の物らしい

なんでも「紙の方が安心する」のだとか。



「ほう、それは中々古風な人ですね。」


電子化が進み医療も機械化が進んだ現代では珍しい物ではあるが、思えば彼女自体ブラックボックスの様な人だったなと思い出す。



「どういう人なのでしょうか。出来れば知りたいのですが。」

けれど振り返ってみれば退院許可証も電子だった。

あれはどういう事だろう。


もしかしたら、、、、、




「何ですかね。」

ただ趣味と仕事を切り替えているのかもしれない。

つまりあの名刺自体趣味の可能性だ



「成程。その可能性は高いですね~私もそうですからわかるんですよ。」


「ところでアナタは誰。」

視線を声の方角つまりは後ろに向ければ彼、男は帽子を胸に抱え恭しくお辞儀をしたのちこう言った。





「私は魔術同好会所属、名を五星いつつぼし優希。ただのしがない助手です。」

そう胡乱な笑みを浮かべて





「貴女には連続老若男女失踪事件についてお聞きいたしたく存じます。」

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