第2話凶報

風の様な音が反響し低くだが荘厳に響く。

それはまるで有名な楽団の演奏のような、怪物の腹の中のような。

聞く人によりその感想は異なるが皆が共通して感じるものーーーー畏怖ーーーー

それは迷宮ダンジョン内に響き渡る。

階層を下る階段に着くと必ず聞こえる音。冒険者たちはこの音を[迷宮ダンジョンの歌]と呼んでいた。



「あと少しで階層が変わるぞ」

筋骨隆々な立派な人種ヒューマンの冒険者

「いよいよ5層ね」

細身だがしなやかでムダのない綺麗な森人種エルフ

「ここから気を引き締めなきゃにゃー」

猫耳ほピコピコとさせて周囲に警戒を配る小柄な獣人種アンスロー

「ほっほっほ、あまり気をはるでない。ギルド依頼クエストを達成する前にばててしまうぞ」

髭を手ぐしでほぐしながら右手にもつ瓢箪を1口煽る土人種ドワーフ

4人は冒険者組合クラン『酩酊の歌』のパーティ。

普段は中層で迷宮にしかない資源の採取や怪物モンスターを討伐し魔石の収集。

それらをギルドに持って帰還し査定を受けた後換金といった流れ。

だが今回はギルドからの直接依頼。目標は5層にて新たに見つかったフロアの調査だ。

「まぁ5層だ、そんなに気負うこともない」

人種ヒューマンの男が鼻歌を歌いながらそう言いツカツカと歩く。

「だけどなーだんちょー、なんかここ変な感じがするにー」

猫耳をピコピコとさせて周囲を警戒する獣人種アンスロー

「ふふふ、猫ちゃんはいつも警戒しすぎよ」

「そうじゃな、警戒も悪くは無いがたまには肩の力も抜かんと気が滅入るぞ」

ガハハと豪快に笑い、手を口元に当て上品に。

全く正反対の森人種エルフ土人種ドワーフの2人が笑う。

「そうかにゃーー、なーんかイヤーな感じがするんだよー」

そんな2人に笑われ少し不満げな獣人種アンスローは鼻をピクっとさせた。

猛烈な悪寒。野生に最も近く、どの種族よりも勘が働く獣人種アンスローは斥候を得意としていた。そんな彼女だからこそ気づいた。

(やばい!この階層に何かいる!え!?ここ4層と5層の間よね???)

まるで深層への降下ダイブをする時と似たような空気。

迷宮自信の生きている気配が濃くなったとでも言うべきか。原始的恐怖。本能が警鐘を鳴らす。

「ボス!ここからなんかやばい!」

背中が汗ばみ握った拳に力が入る。

「あぁ?そうか?確かになんか変な感じだが……」

人種ヒューマンは警戒をする彼女に視線を送りながら後方の2人を見る。

(まぁ、コイツは優秀なんだがなぁ)

どうにも心配性の気があることは否めない。だが迷宮ダンジョンに入る中で用心にこしたことが無いのもまた事実。

「よし、分かっーーーーー」

迷宮の壁に大きな亀裂が入りその音と揺れが人種ヒューマンの会話を遮る。

中からは2つの巨大な何かがこちらを覗いていた。

「んなぁ!」

彼はその何かから咄嗟に距離を置く。

「おい、旦那!ありゃなんじゃ!ここは初層じゃろ!しかも4層と5層の間にあんなバケモンが出てくるとは聞いとらんぞ!」

突然の事態に土人種ドワーフ戦金槌ウォーハンマーを構え吠える。

「あんなの俺も知らねーよ!リーフ!何か分からねぇか!」

「ここにあのような怪物モンスターが出るなんて聞いた事ありませんわ、恐らくあれは人牛ミノタウロス特殊個体ユニークだと思われます」

森人種エルフですら知らない怪物にパーティ全体が緊張し膠着した。

「やるしか……ねぇな」

恐らく敵は格上。迷宮の壁を砕きながらこちらへと進行してくる。

体調は約3m弱、体毛は赤黒く黒い角が2本。

ミノタウロスは通常、中層35階に出てくる中級危険種。普段正面からの戦闘は避けて奇襲を取り相手のペースを崩して戦う。

硬い毛皮は生半可な武器では傷すらつかずその怪力で逆にやられてしまうか可能性もあるのだ。

「クソだりぃぜコイツはよぉ」

大きなため息をつきながら背中に背負っている大剣を引き抜く。

彼の身長と同じくらいの大きさであろう鉄塊を身体の正面へと構えた。

「リーフはそのまま俺らに付加魔術エンチャントを」

指示を出すために一瞬目を離す。ほんの数秒その瞬間

(あれ、あいつらなんで下に)

「ボス!!!」

獣人種アンスローの少女は声を上げて、土人種ドワーフは彼を中へと飛ばした怪物に踏み込む。

「【土精霊ノームよこの槌に宿りて敵を飛ばせ、彼方へ飛ばせ】」

ドワーフのスキル詠唱と共に戦金槌ウォーハンマーのフルスイングがミノタウロスの腿へと吸い込まれる。

金属同士が激しくぶつかる音が響きミノタウロスは階段から下の階へと吹き飛ばされる。

『ウォオオオォオオオオオオオアアアアアアアアア』

飛ばされたミノタウロスの咆哮が迷宮内に反響しビリビリと空気がゆれた。

「まずいぞ!エルフ!ねこ!」

迷宮主クラスの咆哮。

「最悪だわ」

「最悪だぞ」

治癒魔法をかけながら森人種エルフはため息を、獣人種アンスローは思わず語尾が消える。

「「「迷宮行進ダンジョン・パレード!」」」

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迷宮《ダンジョン》は歌う 山茶 @Niiro-anrisia

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