第1話 起床
僕は夢を見てた。
子供の頃から好きだった本を抱いていつも寝てる。
普段は僕が英雄になって大きなドラゴンを仲間と一緒になって戦うんだ。
お城の城壁も紙みたいに引き裂く大きな爪
歩く度に小さな揺れを起こす足
いかなる攻撃も弾き傷一つついていない深紅の鱗
鉄を一瞬にして液体に変える炎のブレス
そんな怪物の攻撃を
後方からは
「アルー起きなさーい」
母の声で目を覚ます。コレが僕の日常。
大きな怪物はいつも倒せずに幻想の仲間と共に微睡みへと消えてゆく。
まだ覚めない頭を回転させて体を起こす。
ここのところ目覚めが悪い。
母に起こされるのは普段と変わらないのだが、スッキリとした寝覚めを最近は味わえていない。
モヤが晴れない頭を振りながら水瓶から水を掬い顔を洗う。
「父さんは?」
まだ半分しか開いていないまぶたを擦りながら母に尋ねる。
「お父さんは仕事に行きましたよ。今日から
そう言われて昨晩の事を思い出し目が覚めた。
「あ!だった!いってらっしゃいって言ってないよーー!」
我ながらこんな自分が嫌になる。
朝から少しため息を着くなんてますますブルーだ。
「さぁ、アルご飯を食べなさい。母さんもこれから仕事に行かなきゃなりませんから」
そう言うとそそくさと自室へと戻ってゆく。
母の仕事は冒険者ギルドの受付だ。その中でも迷宮の中層部、
迷宮内は初層30階、中層の50階、それ以降を深層と呼称している。
母さんは31階の
僕の父さんは
大きな大剣を担ぎ全身鎧のフルアーマーで怪物と正面から切り合うのだ。
どう?かっこいいでしょ?
酩酊の歌は結成15年の老舗冒険者組合なだけあってかなりの強豪だ。
名前の癖に洗礼潔白にして勇猛果敢まさに冒険者憧れの組合で毎年開催される人気冒険者組合で上位5位ないに食い込みココ最近は3位になった。
どうだい?すごいだろ?
まぁ僕はダメダメなんだけど
そう、僕はダメダメなんだ。
友達からはダメアルとか言われていつもからかわれてしまう。
足はみんなより少し早いから追いかけられても直ぐに逃げれるんだけどそれ以外は点でダメ。
父さんはそんな僕に嫌な顔をせず付き合ってくれる。
一緒に剣の稽古、魔法の練習、薬草学の勉強
迷宮での過ごし方、そして怪物からの逃げ方を。
そんな優しい父さんだから僕は好きだ。もちろん母さんも好きだよ。いつも怒られて怖いけど……
そんな自慢の父と母を胸に僕は今日も1日頑張ろうと気合いを入れて頬を両手で叩く。
ペチンと家の中に響き渡ジンジンと熱くなってゆくのを感じながら、母さんの作ってくれた朝ごはんを勢いよくかき込んだ。
「それじゃアル、母さんは今から行くけど」
「分かってるよ!無茶は良いけど無理するな!でしょ?」
「分かってるならいいけど」
何か言いたげな母の顔を横目に今朝の朝刊を広げ目玉焼きを頬張る。
ふむふむ、昨日迷宮に新しいフロアが見つかり調査を実施すると。
これは実に珍しい。
初層はみんな踏み込んでいるエリアなので新しいお宝や魔物は基本狩られているので稼ぎとしてはあまり多くなく、旨みの薄い場所だ。
そんな場所で新たなフロアが見つかったとなれば基本奪い合いが始まり迷宮内だけでなく、地上でも冒険者同士の喧嘩が勃発し、大変なことに。
だから『酩酊の歌』がギルド直々の
「そういや父さんも昨晩言ってたな」
ウィンナーとレタスをパンに挟みソースをかけて口に入れる。
「それじゃアル、留守番お願いしますよ。
母さん、夜には帰ってくるからその間に掃除と洗濯をしててくださいね。」
受付嬢の制服を着た母さんが僕に声をかけるとスタスタと玄関へと歩む。
「んーー!」
朝刊を机に投げて母さんのいる玄関へと駆け足で追いかけた。
「いってらっしゃい!怪物が来たら僕が助けるよ!」
いつもやってる見送り。お手製サンドを口に入れて話す僕に母さんは少し呆れたような顔をしながら僕の口に着いたソースを拭った。
「それじゃ行ってきますね」
扉から刺す朝日が目に当たり思わず目を細める。
影にしか見えない母の姿を見送りながら僕も仕事の準備にかかった。
「今日は
小遣いを稼ぐには迷宮に入り冒険をして魔石や落し
だが迷宮での仕事をしのぎにしている両親からまだ早いと言われて仕方なくこんな仕事をしている。
確かに僕はダメダメだけどさぁ、1階層なら別に余裕だと思うんだよなぁーー、とそんな事を言いながらリュックを背負う。
カランと瓶の当たる音を響かせ僕も母さんを追うように家をでた。
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