第2話 入学 決闘

 黎人に連れられるまま、夜歌は日本でいうところの入学式というものに参加していた。入学式と断言しないは、少し違う点があるからだ。


 ファーカス・ラヴァンの入学の式が他と大きく違う点は、まさにこの入学決闘にあるだろう。


「俺さ、決闘とかあんまり得意じゃないんだよね……」


 嫌々決闘に参加させられている夜歌は、隣に佇んでいる黎人に文句を述べた。


「しょうがないよ。日本人は基本戦わないし、私だってその機会は少ないからね」


 しゃーなし、と黎人は宥める。


 入学決闘は上級生と新入生が一対一となって勝負をする、いわばほぼ負けイベントのようなものである。


 なのでこの決闘に求められているのは勝利ではなく、どれほど戦闘時間を継続できるか、どれほどの実力を保有しているかにある。


 勝てればラッキー、負けてもしょうがないと考えて臨むのが最適であると言えよう。


 式に出席している先生方も新入生が勝てると思っていないし、先輩が負ければ彼らも笑っていられない。


 むしろ決闘に負ける事は、ある意味いい事なのかもしれないな。


「で、俺の相手って誰なんだ」


「聞いた話では三年のグラリア先輩だよ。どうやら相当な怪力の持ち主らしくて、捕まったら最期……どうなるんだろうね?」


「いや、そこ最後まで言ってくれない?」


 夜歌の不安が高まった。


 二年生ならまだしも対戦相手が三年生となれば、相当な実力者に違いない。


 かと言って腑抜けた試合を繰り広げて同級生から見下され、虐められるのも避けたい。おちおち気は抜けない。


 どーしよ、と夜歌は頭を悩ませた。


(一応持ってきたのは銃二丁と鋼糸か。相手は魔法も使えるんだろうし、鋼糸が合ってるか)


 彼の持っている武器は主に三つ。


 遠距離攻撃用に携帯している銃である【slash vipper】と【imagine master】、それと高速で動けることを条件とした【鋼糸はがねいと】である。


 夜歌が考えるに、魔法使い相手に銃は通用する可能性は低いし使えばワンチャン素性がバレる可能性を秘めている。


 ま、バレるって言っても探偵なんだけれど。ちょっとだけ特殊な。うん、ちょっとだけ。


 鋼糸なら比較的人目に晒した覚えもないし、そこらの人間であればあまりの速さで目視することすら叶わない。


 これだ。これしかあり得ない。


「何にせよ強制参加なんだ、楽しんでみたらどう?」


 黎人が笑いながら言う。


「そうだな。一応戦闘方法も思いついた。負けない程度に頑張ってみるよ」


 夜歌も気楽に返す。


 あと危惧されるのは、殺さないように配慮出来るかということだけだ。これだけは死守せねばならない。平穏の為に。


 そして遂に、夜歌の入学決闘の番が訪れた。


 召集の先生に呼ばれ決闘会場へ足を踏み入れた夜歌は、そこで初めてグラリア先輩という人物と出会う。


 筋骨隆々で、如何にも体育会系であると言わんばかりのナイスガイ。うん、周辺の女子の目線が集まっていることから相当モテるらしい。


 数秒毎にポージングしてるナルシストなのに、どうして彼がモテるのか。夜歌は大きな疑問を抱いた。


 そんな先輩は立ち尽くしている夜歌を見ると、気楽に声を掛けてきた。


「君が新入生の秦凪夜歌君か……飯は、食っているか?筋トレはしているのか?」


 尋問でもされているのだろうか。


「飯は一日三回食べていますよ。勿論、毎日の筋トレも欠かしていません。行動が鈍くなってしまうので」


 恐れる仕草のひとつもなく夜歌は返す。


 すると先輩は夜歌を大層気に入った様子で、ガハハと大声で笑い声を上げ自己紹介を始めた。


「いい男だ、秦凪夜歌ァ!!俺の名はグラリア・サーファルク、又の名を【剛力の剣神】!!良き勝負を期待しておるぞ」


 なんか気分が良くなったみたいで、二つ名まで語り出す始末である。本当に勘弁してほしい夜歌だった。


 悪い気はしないのだけど、日本を生きてきた夜歌にとって二つ名とかは何処か恥ずかしい。掘り返したくない過去が、自分の後ろ髪を掴んでいるような気がした。


「では秦凪夜歌、お前の好きに始めるといい。お前の好きなタイミングで、好きな攻撃方法をとれ。それを開戦の合図としよう」


「わかりました」


 本当に器の大きい人だ。


 傲慢と言えばそれまでだが、新入生を引き立たせられるように上手く立ち回っている。


 負ける気は無いにしても、これで一撃見舞えたのならば新入生は相当な花を持つことができるだろう。


 もしそれを考えた上であのように言うのなら、先輩はまさに器が大きい人物だ。


 夜歌は衣服に隠した鋼糸を構える。


 糸の切れ味はいいが極小の為、当然周りの人間には見えていない。今頃は夜歌がその場でぼっ立していると思っているだろう。


 同時に先輩が何処からか取り出した大剣を豪快に構える。【剛力の剣神】というだけあり、その気迫がひしひしと伝わってくる。


「さぁ、勝負開始だ」


 夜歌は鋼糸を張り巡らせた。

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闇生きる探偵と女装メイドの青光記憶塊《プリズム・ダイアリー》 大石或和 @yakiri_dayo

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