EP29:日出ずる国にて

アメリカがソビエト共和国連邦にスパイを送っている。

その事実はすぐにソビエト共和国連邦と関係を持っている日本にももたらされ


「.....自由の国がここまで自由だったとはな」


田中義一はその事実に対し、顔を顰めながらそう言った。


「ウクライナ内戦の一件と言い、今回の一件といい.......アメリカは何がしたいのでしょうか?」


そんな義一に対し、同調するようにそう言う側近。

その言葉を聞いた義一は側近が自分と同じ意見であることに安堵した後、こう言った。


「アメリカがソビエト共和国連邦にスパイを送っていたとなると....我が国にもアメリカのスパイが紛れ込んでいる可能性は高い。十分に警戒するように伝えろ」

「ハッ!!」


側近はそう言った後、義一の執務室から出ていった。


(....恐らく、アメリカはソビエト共和国連邦の急成長を警戒している。だからこんなことをしたのだろうな)


そう思いながら、机の上に置いてある緑茶を飲む義一。

史実と異なり、今の日本はソビエト共和国連邦と良好な関係を築いている。

そのため、ソビエト共和国連邦を警戒しているのに加えてウクライナ内戦では敵側に武器を売っていたアメリカとは少しずつだが関係性にヒビが入っていた。


(だが....スターリン閣下が作ったあのラーメンは美味かった。また食べたいが...それは無理な話だろうな)


かつて、自身がソビエトに来訪した際に食べた豚骨ラーメンのことを思い出しながら、そう思う義一。

と、その時....部屋を出ていったはずの側近が慌てて義一のところに戻ったかと思えば、彼に向けてこう言った。


「そ、総理!!大変です!!」

「どうした?何があった」


側近に対し、ただ事ではないと察したのか....そう言う義一。

一方、側近の方は息を整えると......義一に向けて一言


「て、天皇陛下が....スターリン閣下にお会いしたいそうです!!」


と言った。


「....は?」


その衝撃的な言葉に対し、思わずそう呟く義一。

そして、義一もまた息を整えると....こう尋ねた。


「.....それは本当か?」


義一の言葉に対し、コクコクと頷く側近。

そんな側近を見て、彼の言葉が本当だと察したのか....義一は呆然とした顔になった後、こう言った。


「スターリン閣下に今すぐ伝えろ!!今すぐだ!!」

「は、はい!!」


義一の言葉に対し、再び慌てた様子で部屋を出る側近。

この展開に対し、義一は


「もしかすると.......これは日ソの関係強化に繋がる可能性が高いな」


そう呟いた後、疲れ切った顔で椅子に座った。

かくして、天皇の一言はスターリンの元に届けられ....前代未聞の天皇のソビエト行きが決まるのだった。

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