EP16:田中義一とスターリン

1928年。

スターリン邸の食堂に一人の男が居た。

その男の名は田中義一。

当時の日本国の内閣総理大臣であった男である。

何故、この男がソビエトに来ているのかと言うと.....その理由は簡単で、ソビエト共和国連邦が急発展している理由を知るためであった。


「.......」


しかし....来たのは良いものの、その当のスターリンは何故か日本風のエプロンこと割烹着を着ている上に、目の前には当時の日本にあったラーメンとはまた別のラーメン......いわゆる豚骨ラーメンがあったので、義一は思わず固まっていた。


「大丈夫ですよ。これには毒は入ってませんし、熱々のうちに食べるのがオススメです」


そんな義一に対し、スターリンがそう言うと


「そ、そうですか.......」


義一は緊張した面持ちで箸を手に取ると、目の前にある豚骨ラーメンを食べた。

するとその瞬間....義一の顔色は一気に変わり、箸とレンゲを使いながら美味しそうに豚骨ラーメンを食べるのだった。


「この味.......たまりませんなぁ」

「でしょう?」


豚骨ラーメンをガツガツと食べる義一に対してスターリンは嬉しそうにそう言うと、自身も豚骨ラーメンを食べ始めた。


「しかし、閣下が料理好きだったとは....」

「まぁ、ちょっとした息抜きですよ」


スターリンがそう言うと、その場にいたソビエト側の側近・幹部たちはこう思った。

息抜きで何時間もキッチンに留まるわけないだろう、と....


「それに、近頃のソビエトの発展具合は日本にも届いていますよ。何でも、アニメ産業と自動車産業に力を入れているらしいですよね」


義一がそう言うと、スターリンは待ってましたという顔になった後、こう言った。


「田中さん....アニメや車というものを侮ってはいけません。この二つは技術者の誇りとロマンが詰まった芸術品なのですから」


その言葉を聞いた義一はピクッと反応した後


「.....そうなのですか?」


スターリンに探りを入れるようにそう言った。


「えぇ、彼らにはそれなりのプライドと知識があります。ですが.......世の中の人々は彼らを甘く見ています。ですから私は彼らの力を世界に知らしめようと思っただけです」


そう言った後、レンゲを使って器用にスープを飲むスターリン。

一方、その言葉を聞いた義一の顔は半信半疑であったものの......スターリンの話を一言一言忘れまいという雰囲気が出ていた。

というのも....彼がソビエトに来た理由は、ソビエトが急発展した理由を突き止め、それをあわよくば日本の発展に使おうと考えていたのである。


「あ、そうだ。何でしたらうちの国からアニメーターや技術者を派遣しましょうか?」

「.....え?」


スターリンの言葉に対し、思わずポカーンとした様子でそう呟く義一。

しかし、これはソビエトと繋がるチャンスだと思ったのか


「......それはありがたいですね」


その蜘蛛の糸を離してたまるかと思ったのか、スターリンの言葉に対してそう言った後、義一は再びラーメンを食べた。

かくして....久しぶりに日本人と交流できたと能天気な様子のスターリンを尻目に、義一はソビエトとのコネが出来たと内心喜ぶのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る